番外編:【トイレの手洗い方法】
《お知らせです。今日、8月1日は私が小説を書き始めて1ヵ月記念。勝手にお祝いでもう1話、通常の投稿時間と違うお昼に投稿しました。これからもよろしくお願いします》
ある日、家で手を洗おうとすると、水道の蛇口から水がポタポタと漏れていた。困っていると、おじいちゃんが「パッキンが緩んでいるんだな」と器用にサクサクと直してくれた。さすが、長年培った手さばきは頼もしい。
無事に直ったあと、縁側に座っておじいちゃんは「仕事の後のビールは旨いなぁ」と一杯やり、その横でおばあちゃんは緑茶、僕は甘い麦茶を飲んでまったりしていた。
すると、おばあちゃんがふと思い出したように話し始めた。
「そういえば、団地に住んでいた頃の夏休みに、おばあちゃんの実家のここにお母さんが遊びに来たでしょう? あの頃はまだトイレも水洗じゃなくて、夜の明かりも裸電球で暗かったから、お母さんは怖がって大変だったのよ」
さらに、おばあちゃんは懐かしそうに続けた。
「トイレのあとで手を洗うのも、天井から水色の『吊り下げ式手洗い器』っていうタンクがぶら下がっていてね。下についてる棒を上にぴょんぴょんと押し上げると、水がチョロチョロと出てくる仕組みになっていたのよ。お母さんは子供の頃、使い方がわからなくて戸惑っていたっけねぇ」
それを聞いた僕が思わず声を上げる。
「えっ、そんなの絶対わからない自信がある! そんなトイレだったら、怖くて毎回誰かについてきてもらわなきゃ無理だよ」
僕の言葉に、おばあちゃんがクスリと笑って、今度はお父さんの赴任先である異国の地での話を振ってきた。
「そういえば、お父さんの仕事の異国に行ったとき、あっちのトイレ事情はどうだったの?」
「それがさぁ……」と僕は身を乗り出して答えた。
「家の中は普通に水洗だったけど、ウォシュレットなんて影も形もなかったよ。それに何が大変って、一歩外に出たときだよ。日本みたいにどこでも気軽にトイレに行けなくて、お店のひとにいちいち鍵を借りなきゃいけなかったり、場所によっては使用した紙を配管が細くて詰まっちゃうから横のゴミ箱に捨てなきゃいけなかったりさ。観光地なんかでは、トイレのお世話をする係の人がいてチップを払うこともあったんだ。便座すらなかったりして、お母さんも『どうしたらいいの……』って、だいぶお疲れ気味だったよ」
同じ日本でも、おばあちゃんが子供の頃使っていた不思議な手洗い器の時代から、お母さんが育った団地、そして僕が生きる現代まで時代によって全然違う。さらに、海を渡れば国ごとにトイレのルールや事情までガラリと変わる。
いろんな国を経験したお母さんたちの苦労を想像しつつ、僕は今の日本の清潔で便利なトイレ事情にしみじみと感謝した。
まだまだ僕のタイムカプセルの中身は、こうして増えていきます。




