番外編:【富士山と、ふくらんだ冷水筒の噴水騒動】
今日は送り火の日だったので、東京にいるお母さんとの画面越しの会話は少し短めになった。明るいうちにご先祖様をお送りするんだと、おばあちゃんが少し急いでいたからだ。
通話を終える直前、お母さんがふと思い出したように、おばあちゃんに尋ねた。
「ねぇ、昔団地にいた頃、冷蔵庫に麦茶を入れていたあの容器……灯油のポリタンクを小さくしたような、柔らかい素材のがあったでしょ? あの名前、なんて言うんだっけ?」
おばあちゃんは少し考え、「ああ、あの頃はただの『冷水筒』とか『水差し』って呼んでいたわね」と答えた。
「そうそう。ねえ、なんでうちの冷水筒って、あんなに膨らんでだるまみたいになってたの?」
お母さんがそう尋ねると、おばあちゃんは少し罰が悪そうに笑い、おじいちゃんは声を上げて笑い出した。
「あれはお母さんが小さかった頃、家族で富士山にドライブに行った時の失敗談だよ。小さ過ぎて、覚えてないかな?」
「えっ、昔の富士山って、車で行けたの?」
僕が驚くと、おじいちゃんは懐かしそうに頷いた。
「ああ、行けたとも。ただ、今とは装備が違ったからな。当時、ペットボトルなんて便利なものはなかったから、おばあちゃんが例の柔らかい冷水筒に黒い炭酸飲料を詰めて持っていったんだ。ところが、標高が上がるにつれて気圧が下がったんだろうな。容器が風船みたいにパンパンに膨らんで……しまいには、噴水みたいに中身が吹き出したんだよ」
「ええっ!炭酸が気圧で!?」
「そうさ。あの時はびっくりして、大笑いしたもんだよ。何でも経験だな」
「あぁ、それで家の冷水筒はだるまみたいに膨らんでたんだね」とお母さんが言うと、おばあちゃんが照れくさそうに微笑んだ。
今ならそんな状態になったらすぐに捨ててしまうだろう。でも昔は、形が変わっても物を大切に使っていたんだな、と僕は思った。
お母さんと話を終えてから、僕は送り火を焚いた。
立ち昇る煙を見つめながら、僕の知らない家族のいろんな物語が、こうして毎年毎年、少しずつ僕に受け継がれているんだなと静かに感じていた。
家族の物語はまだまだ続きます。




