番外編:【それぞれの九死に一生】
明日は送り火を焚くという日。お母さんが仕事から帰ってくる時間に合わせて、おじいちゃん、おばあちゃん、そして僕の三人で「魔法の箱」ことタブレットの画面越しにお母さんと繋がった。
「ねえ、昨日テレビで『九死に一生を得た』っていう特集をやってたんだけどさ、みんなってそんな経験ある?」
僕の素朴な疑問に、おじいちゃんが「二つあるぞ」と笑って口を開いた。
「一つ目は昔バイクに乗っていた時のことだ。当時はマフラーの音が大きいだけで『カミナリ族』と勘違いされて、警察に止められたり周囲から白い目で見られたりと、散々だった。ある時山道を走っていて転倒してしまったんだが、バイクだけが横倒しになって、俺はガードレールの上をモノレールみたいにお腹で滑っていったんだ」
「えっ、ガードレールを!?」
「ああ。冬場だったから革ジャンとセーターを着込んでいてな、それが厚手で助かった。あと一枚でも薄着だったら大怪我をするところだったよ。ほんと、あれはぞっとしたね」
「おじいちゃん、生きててくれてよかったよ。そんなやんちゃな時代があったんだね」
僕が言うと、おじいちゃんは「まだまだやんちゃだよ」とウィンクし、おばあちゃんとお母さんが画面の向こうで大笑いした。
「もう一つは高校の恩師が亡くなった時の話だ」
おじいちゃんは急に表情を引き締め、遠い目をした。
「昔の電車は木造でな、火花が散るとすぐに火事になることがあった。恩師の葬儀に最後まで参列して見送ったんだが、もしあの時早めに帰っていたら、炎上したあの電車に乗っていたかもしれない。恩師が守ってくれたのかなと思うと、人生には不思議な帳尻合わせがある気がするんだ」
「亡くなった先生が、おじいちゃんを繋ぎ止めてくれたんだね」
僕がしんみりと呟くと、今度は画面越しにお母さんが声を上げた。
「私もね、九死に一生を得たことがあるわよ!」
「お母さんが?どんな?」
「一人暮らしを始めたばかりの頃ね。クローゼットに突っ張り棒をつけようとしたんだけど、狭い場所で必死になってたら、気づかないうちに首が突っ張り棒と壁の隙間に挟まっちゃって」
「ええっ!?」
「当時はスマホじゃなくてピッチの時代だし、手元に電話もなくてね。このまま動けなくなるの!?ってすごく不安になったけど、必死に手を伸ばしてネジを緩めて脱出したの。あの時は本当に焦ったわ」
お母さんの話に、おばあちゃんが「あらまあ、危ないじゃない。自分で脱出できたからよかったけど、もし誰にも見つからなかったらと思うとゾッとするわね」と胸を撫で下ろした。
僕も一人暮らしを始めたら、気をつけなきゃいけないなと心に誓った。お盆というこの時期に、おじいちゃんの恩師の話や家族の不思議な体験を聞けて、なんだかとても心温まるご供養になった気がする。
まだまだ番外編は続きます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、家族との大切な思い出をタイムカプセルのように詰め込んでいます。
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