番外編:【伊達政宗が愛した石と、お盆の海の話】
迎え火を焚いた翌日、僕はおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に「硯伝統産業会館」へ向かった。建物の目の前には海が広がり、夏の強い日差しを受けてキラキラと輝いている。
館内に入ると、伊達政宗公が愛用したという硯のレプリカが展示されていた。
「すごいなぁ。こんな昔から、大武将に認められるくらいここの石って有名だったんだね」
僕がしみじみと呟くと、おじいちゃんが教えてくれた。
「江戸時代の元和年間にな。政宗公が鹿狩りで牡鹿半島を訪れた際、硯を献上したそうなんだ。その品質を政宗公がいたく賞賛して、その後も愛用したという記録が残っておるよ」
展示されているレプリカは、シンプルで小ぶりな作りだった。現在の採掘場である「硯浜」という地名も、この歴史と深く繋がっているそうだ。
お土産コーナーには、硯石で作られたおしゃれなコースターやアクセサリーが並んでいる。展示されていた硯をそっと指で撫でてみると、驚くほどなめらかだった。
「わあ、すべすべでひんやりしてる!」
僕がそう言うと、おばあちゃんも横から手を伸ばし、「ホントねぇ、気持ちがいいわね」と笑った。
帰りに隣の海産物直売所で、おばあちゃんが東京の家へお土産を送ってくれた。僕の大好きなとろろ昆布をたくさん詰めてもらう。画面越しのお母さん、驚くだろうか。
その後、ランチに冷やし中華を食べていると、おばあちゃんが呆れた顔をした。
「せっかく海に来ているのだから、海鮮丼にすればいいのに」
「だって、これが食べたかったんだもん」
僕は苦笑いしながら、ふと思い出したことを聞いてみた。
「ねえ、この間アイツらと話してたんだけど、お盆に海に入っちゃダメっていうの、本当なの?東京じゃお盆休みに江ノ島とか大混雑だよ」
僕の言葉に、おじいちゃんは真剣な表情で頷いた。
「それはな、物理的な危険と、宗教的な風習の二つの理由が重なっているからだよ」
「物理的な危険?」
「ああ。一つは土用波といって、遠くの台風の影響で晴れていても突発的に高い波が打ち寄せることがある。もう一つは、この時期からクラゲが発生しやすくなることだ」
おじいちゃんは一口お茶を飲んでから続けた。
「そして何より、お盆はご先祖様の霊が帰ってくる大切な期間だ。家族で集まり、静かに供養や墓参りをするのが本来の過ごし方。海で遊ぶのは、ご先祖様に対してふさわしくないと考えられていたのさ」
「なるほど……昔の人の経験と知恵なんだね」
僕が納得して呟くと、おばあちゃんが優しく微笑んだ。
「そうよね。でも、みんなが休める唯一の時期だから、今はライフセーバーがいたり安全も確保されているわ。時代に合わせて、色々と変わっていかなきゃいけないのね」
戦国武将の時代からこの地に伝わる石の文化と、昔の人々の知恵。海風を感じながら、僕はこの土地の時間の流れに深く思いを馳せていた。
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