番外編:【伝統の響きと、時を越える祈り】
「今日はな、重要無形民俗文化財の『法印神楽』が行われるんだ」
おじいちゃんがそう言って、僕を誘ってくれた。大震災の前は、あの日、ひいおばあちゃんが祈りを捧げた山の上の神社で行われていたそうだが、今はこうして不定期に地域の集会所などで行われているという。
普通の集会所であるはずなのに、中に入ると空気が一変した。
「見てごらん。これが囃子方の方々だよ」
おばあちゃんがそっと耳打ちしてくれた。篠笛、大拍子、手平鉦。専門の奏者が奏でる調べに合わせ、仮面をつけた演者が舞っている。
「仮面をかぶっているから、表情が見えないね」
僕がそう呟くと、おじいちゃんが頷いた。
「そうだな。だが、その見えない表情の分だけ、舞い手の魂の動きが伝わってくるだろう。笛の音が高ぶり、太鼓が激しく響く……あの神様が登場する瞬間、神楽はただの踊りではなくなるんだ」
確かに、楽器の音色が演者の動きと一つに重なり、静まり返った観客を神聖な世界へと引き込んでいく。仮面が作る厳かな空間に、僕は息をのんだ。
「震災の後、道具や衣装を失うこともあったけれど、保存会の方々が強い信念で守り続けてきたんだよ」
おばあちゃんは、どこか遠くを見るような目で続けた。
「この音色は、ずっと昔から、苦しい時も悲しい時も、こうして響き続けてきたんだからね」
舞い手の力強い一挙手一投足を見つめながら、僕は胸が熱くなるのを感じた。地域の祭礼や神事の中で、当時のままの音色が震災を乗り越えて繋がれている。
「家族の思い出を詰め込んだタイムカプセルも大切だけど……今日は、日本人がずっと大切にしてきた『祈りのタイムカプセル』に触れた気がするよ」
僕がそう言うと、おじいちゃんとおばあちゃんは嬉しそうに目を細めて微笑んでくれた。集会所に響く笛の音は、過去から未来へ向けて、絶えることなく静かに受け継がれていた。
僕の三陸の冒険の旅は、まだまだ続きます。




