番外編:【黄金色の守り札と変わらない夏の風景】
翌朝、アイツとお兄さんが家まで僕を迎えに来てくれた。アイツのお父さんが、船が出る鮎川港まで車で送ってくれるという。車に乗り込むと、おじいちゃんとおばあちゃんが「気をつけていくんだよ」と笑顔で手を振ってくれた。
牡鹿半島の先端へ向かう海岸線は美しく、車内のおしゃべりも弾んで、40分ほどの道中があっという間に感じられた。鮎川港から金華山までは、わずか20分の船旅だ。出発すると海は少し波立っていたけれど、アイツが「この海にはサメがいっぱいいて、それがフカヒレ料理になるんだよ」なんて軽口を叩くものだから、緊張もほぐれた。
島に一歩足を踏み入れると、空気がキリッと澄み渡った。金華山は島全体が神域なのだという。ただ、僕には一つだけ困ったことがあった。野生の鹿があちこちにいて、地面にはその「丸い落とし物」がびっしりと敷き詰められているのだ。
「うわっ……ムリ!!」
思わず叫んでしまった僕を見て、アイツは呆れ顔だった。でも、鳥居をくぐり、険しい階段を登り始めると、そんなことは言っていられない。あの異国での修行旅行を思い出すような道のりだったけれど、頂上の神社にたどり着くと、心の中まで洗われるような厳かな気持ちになれた。
おじいちゃんとおばあちゃん、それに遠く離れた家族の分まで、金運のパワースポットとして有名な「黄金山神社」で「黄金色の守り札」を買い求めた。みんなで大金持ちになれたらいいな、なんて思いながら。
家に戻り、早速タブレットを繋ぐと、画面越しに東京のお母さんが現れた。
「お母さん、今日すごく楽しかったんだよ!」
僕がそう報告すると、お母さんはおばあちゃんに向かって目を細めた。
「そういえば私が子供の頃、夏におばあちゃんの兄弟たちが集まって金華山に行ったことがあったわよね」
「そうそう、あの時はおばあちゃん(ひいおばあちゃん)が、マイクロバスを運転手付きで貸し切ってくれたのよね」とおばあちゃんが懐かしそうに笑う。
「お盆で船着き場はすごい人で、満員電車みたいに身動きが取れなくてね」とお母さん。
「そうしたら、マイクロバスの運転手さんが突然、船の外をよじ登って柵を越えて『席取っておくぞー!』って中に飛び込んでいってねぇ」
「あったわ、あったわ! 豪快な運転手さんだったわねぇ」
おじいちゃんまでもが声を上げて笑っている。
「今なら警察沙汰だよね」と僕が言うと、お母さんはいつもの魔法の言葉を口にした。
「昔はおおらかだったのよ」
「金華山に行ったら、地面が鹿の落とし物でいっぱいだったでしょう?」とお母さんが聞くので、「そうなんだよ! 僕も久しぶりに『ムリ!』って叫んじゃったよ」と笑い合う。
「そういえば、いとこの一人が鹿に蹴飛ばされたこともあったわね。怪我がないからって、みんなで笑い飛ばして」
「今だったらすぐ救急車騒ぎね」と僕が言うと、またおばあちゃんが「昔はおおらかだったのよ」と笑った。
僕がみんなの分も買ってきた「黄金色の守り札」を見せると、お母さんが「これでみんな大金持ちね!」と嬉しそうに言い、タブレット越しに笑い声が重なった。大金持ちを夢見て笑い合える、そんな三陸の穏やかなひとときだった。
僕の三陸の冒険は、まだまだ続きます。




