番外編:【それぞれの夜】〜離れていても、同じ星を見上げて〜
三陸の夜は早い。おじいちゃんとおばあちゃんと僕が、明日の金華山への準備を整え、食卓を片付けていたその時だった。
置いてあったタブレットが、楽しげな呼び出し音を鳴らす。画面には、遠く異国の地で一人過ごすお父さんの顔が映っていた。
「……こんな時間に珍しいな」
おじいちゃんが微笑みながら、画面をタップして通話をつないだ。画面の向こうのお父さんは、少しだけお酒が入っているのか、頬がほんのり赤く、どこか寂しげな表情を浮かべている。
「おい、こんな時間にどうした? そろそろ寝ようとしていたところだぞ」
おじいちゃんが問いかけると、お父さんは照れくさそうに笑った。
「ああ、すみません。……ちょっと顔が見たくなって。そっちはもう寝る支度ですか?」
【お父さんの心の独白】
――ああ、みんなの声が聞けてよかった。三陸の温かい空気が、画面越しに伝わってくるようだ。この部屋は広くて静かすぎて、時々どうしようもなく寂しくなる。みんなに迷惑をかけているのは分かっているけれど、こうして少しでも繋がっていれば、私もまた明日から頑張れる気がするんだ。
【おじいちゃんの心の独白】
――やれやれ、このお父さんは相変わらず寂しがり屋だな。でもまあ、こうして孫の顔を見て安心したいんだろう。遠い地で一人、仕事に励んでいるんだ。少しばかりの甘えなら、今日くらいは目をつぶってやるか。
【おばあちゃんの心の独白】
――本当に、いくつになってもお父さんは甘えん坊ね。でも、こうしてたまに電話をかけてくることで、家族の絆を確認したいのかもしれないわ。お酒の力を借りてでも連絡をくれるのは、彼なりの精一杯の愛情表現ね。
【僕(孫)の心の独白】
――お父さん、ちょっと寂しいのかな。一人で頑張ってるもんね。僕たちが三陸で楽しくしているのを知って、安心したかったのかもしれない。……少しだけ、優しくしてあげよう。
「お父さん、そっちはまだそんなに遅くないでしょ? ……ぼくね、明日は友達と朝から金華山に行くんだよ。すごく楽しみなんだ」
僕が明るい声で話しかけると、お父さんの表情がふっと和らいだ。
「そうか、金華山か。それは楽しみだな! 昔、行ったことがあるぞ。たくさん写真を撮ってきてくれよな」
「うん、わかった! お父さんもお仕事、無理しないでね。また明日、元気な時に電話してよ」
お父さんは「ああ、そうだな。またな!」と嬉しそうに手を振った。画面の中のお父さんは、先ほどよりもずっと穏やかな笑顔だった。
通話が切れた後、三陸の夜には穏やかな余韻が残った。タブレットの明かりが消え、暗くなった部屋で、僕は明日への期待を胸に、眠りへとついた。遠く離れていても、心は同じ夜空の下で繋がっているのだと、僕には確かに分かっていた。
まだまだ番外編は続く




