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おじいちゃんの昔話(下)

ちょうどいいところで、おばあちゃんがお昼の呼び出しに来た。おじいちゃんに向かって「また飲んでるの!」と怒っていたけれど、僕は食べ終わるとすぐに話の続きが気になってワクワクした。

そんな僕に対しておじいちゃんは、縁側で大の字になって眠ってしまった。僕の定位置を奪われたので、仕方なく反対側に座ってゲームに没頭した。

「風呂を沸かしに行くぞ。五右衛門風呂の沸かし方を教えてやるから来なさい」

おじいちゃんの声にびっくりして、僕はゲームの世界から現実へと引き戻された。

薪の火の付け方を教わったけれど、正直できる気がしない。

「東京に帰るまでには、慣れてできるようになるよ」

おじいちゃんは笑ったけれど、無理だ。でも、不思議とうまく火が点いた。おじいちゃんが一度その場を離れても、僕は薪がゆらゆらと燃えるのをずっと眺めていた。

あまりの暑さに汗だくになり、甘い麦茶を飲もうと立ち上がった時、ふらついて熱いところに手を触れてしまった。すぐに離したが、指先が赤くなってヒリヒリする。おじいちゃんに駆け寄って火傷を伝えると、「どれどれ」と見たおじいちゃんは、「これなら消毒しとけば大丈夫だ」と、なんと縁側のビールを僕の指先にかけた。

いくらなんでも! 僕は信用できなくておばあちゃんの元へ駆け込んだ。ヒリヒリする指を見たおばあちゃんは「あらまあ」と冷やして軟膏を塗ってくれた。

おじいちゃんが再び縁側で寝ていたので、おばあちゃんに言われて僕は一人で五右衛門風呂に入った。もうプロの入り方だから怖くない。

次の日、またおじいちゃんが縁側で話の続きをしてくれた。

おじいちゃんと結婚した当時、おばあちゃんはもう結婚を諦めていたそうだ。一度東京に出た人は田舎では嫁ぎ先がないと言われていたからだ。そんな時、勤め先の奥様がお見合いを持ってきてくれた。それがおじいちゃんだ。

「お屋敷に帰るたびに高級なお酒やお料理でのおもてなしに気が引けて、だんだん疎遠になってしまった」とおじいちゃんは少し寂しそうに笑った。

二人が住み始めたのは品川の商店街の近く、1階が大家さんで外階段がある2階の部屋だった。

手先の器用なペンキ職人として働いていたおじいちゃん。当時の日本は高度経済成長の真っ只中で仕事はたくさんあったそうだ。

台所、4畳半と6畳の2間、押し入れにポットン式のトイレ。お風呂はなく、外の銭湯に通った。電話もなく、緊急時は下の大家さんに取り次いでもらう。雨の日も雪の日も、おばあちゃんは公衆電話までかけに行ったそうだ。

「お母さんはポットン式のトイレが怖くて一人で行けなくてね。穴から落ちるんじゃないかって必死で、いつもおばあちゃんが連れて行ったんだよ」

運動神経が鈍かったのか、お母さんはよく怪我をしていた。大家さんの菊の鉢におでこをぶつけたり、幼稚園の遠足の翌日に筋肉痛で泣き叫んだり。隣の高校生のお兄さんの部屋と窓が近くて、でたらめ英語を聞いてもらっていたのもいい思い出だそうだ。

「お豆腐屋さんのラッパが聞こえると、鍋を持って駆け出していったんだ」

おばあちゃんが慌ててお財布を握りしめて追いかけたという話を聞き、お母さんのやんちゃな一面を知って笑ってしまった。

電話の話にもびっくりした。おじいちゃん家の黒電話も驚きだったけれど、僕はスマホがないと東京では過ごせないと思っていた。

……あれ? ここに来てからスマホを使っていない。

おじいちゃんの話が途切れた隙に探してみると、充電が切れていた。いつも気にしていたはずなのに、もう何日も切れっぱなしだったことに、僕は今ようやく気がついた。

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