番外編:お母さんと僕の初めての大冒険⑥〜やっと普通の観光?ならいいな?〜
おやつを食べた後、昨日から約束していた通り、魔法の大きい箱をつなげてお母さんも参加し、4人で話すことになった。
「今ね、おじいちゃんとおばあちゃんに、あの100万ドルの夜景のところに行って、プロムナードを歩いてホテルへ戻った話をしようと思ってたんだ」
僕がそう言うと、お母さんが「ハア……」と深いため息をついた。それを見て、おばあちゃんが「何か不穏な空気がするわね」と苦笑する。
「お母さん、ホテルはよかったよね。飲茶を食べた場所から歩いて行けるけど、お父さんが気を遣ってタクシーを拾ってくれて、チムの海沿いにある『YMCA』に泊まったんだよね」
「そうね。でも、その隣にあるアフタヌーンティーで有名なペニンシュラホテルに、一度でいいから泊まってみたかったのよ……」
お母さんがつぶやくと、おばあちゃんが「あなた昔からあそこに泊まりたいって言ってたわよね」と懐かしそうに頷いた。
「でも、YMCAも景色が最高だし、いろんなところに行きやすくて便利だったよね」と僕が言うと、お母さんは少し顔をほころばせた。
「ホテルにスーツケースを置いたら、お父さんが『今日は晴れてるし、夜景を見に行くから出かけるぞー!』って張り切っちゃって。僕が『スターフェリーって知ってる? チムからセントラルまで船で5分くらいで着くんだよ。地下鉄もいいけど船の方が異国らしくていいって、お父さんがオススメするから乗ったんだよね』って話したら、お母さんが当時のことを話し出した。
「飲茶を食べたばっかりだったけど、お父さんが『裏道を歩いて行く』なんて言うから、もう人混みがすごくてフラフラしちゃって。お父さんが『茶餐廳』に入ろうって言うから、吸い込まれるように入っちゃったのよね」
「そうそう! 飲茶食べたばっかりなのに、隣のおじさんが香港式のステーキをジュージュー音を立てて食べてるのを見て、どうしても食べたくなっておねだりしたんだよね」
「そうよ。お父さんはカレーに大根が入っているものを食べてたし、私はコーヒーとミルクティーが混ざった『鴛鴦茶』を飲んで……。疲れて判断力がなかったわ。あ、でもエッグタルトは美味しかった! 後からここではカーネルおじさんの店でも売ってるって聞いてびっくりしたけどね」
話はさらに盛り上がる。ドアを全開にして扇風機と冷房をガンガンかける独特のスタイルに、おじいちゃんもおばあちゃんも「電気代かかるわよねー」と驚いていた。
「スターフェリー乗り場までは、そこまではね、普通の観光って感じで平和だったのよ」とお母さんが遠い目をする。
「そう! そこからは巨大なバスターミナルへ向かって、『15C』のトラム駅行きに乗るはずだったんだよね。でも、お父さんが『あれだ!』って慌ててバス停に走って……」
僕がそう言うと、お母さんは苦笑いした。
「結局乗ったのは『15』のバスで、だんだん山の中へ険しく入っていっちゃったのよね。私はどうしてもトラムでピークに行きたかったのに……」
結局、ピークトラムには乗れず山の中へ。お母さんはバス酔いでぐったりしたけれど、マンゴージュースを飲んで復活。ピークからの夜景は本当に絶景で、おじいちゃんが「熱海と一緒かな?」と言ったのに対し、おばあちゃんが「規模が違うでしょ!」とツッコんだ。
「帰りのピークトラムも凄かったね。絶対に乗る!って気合を入れて、1時間並んで……」
「転がり落ちそうな急勾配で、座ってないと大変だったわよね」
帰り道、タクシーであっという間にセントラル駅へ着いた時、お母さんが「あんなに苦労してピークまで行ったのに、タクシーなら5分じゃない!」と怒っていたのが可笑しかった。
「そういえば、今の地下鉄はスマホやQRコードの紙で乗るんだってね。昔はこの改札で『トークン』っていう、プラスチックのおもちゃみたいな硬貨型の切符をピッてしてたんだって」
最後は海沿いのプロムナードを、さっきまでいた香港島の夜景を見ながらYMCAまで歩いて戻った。
「お母さん、ほんとに僕たちの旅は修行だったよね。お父さんの『余裕』っていうのはもう信じないことにするよ」
僕がそう言うと、おばあちゃんは笑い、おじいちゃんは苦笑い。お母さんは「ほんとよね」とプリプリしながらも、どこか楽しそうだった。
「さぁ、そろそろお母さんも夕飯食べなきゃ。明日も仕事だからね」
おばあちゃんが「旅の疲れは大丈夫?」と心配すると、お母さんは「旅行で使った分、取り戻さなきゃ!」と拳を握り締めた。
僕とお母さんの修行の旅は、まだまだ続きそうだ。




