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番外編:お母さんと僕の初めての大冒険⑤ 〜お父さんの『余裕』は、僕たちの『修羅場』〜

 お昼を済ませ、丸い食卓を囲んでおじいちゃんとおばあちゃんに午前の続きを話した。

「やっとの思いでマンションに着いたんだけどさ、湯船がないんだよ。シャワーだけじゃ疲れが取れなくて。やっぱり日本のお風呂が一番だね」

 僕がぼやくと、二人は顔を見合わせて笑った。

「お父さんに聞いたら『どこもシャワーだけだよ』って言ってたけど……聞いてよ、そのお父さんがもっと酷いんだ」

 僕は身を乗り出して続けた。

「みんなで寝ようとしたら突然宣言したんだ。『明日はお父さんも休みが取れたから、100万ドルの夜景が見える場所に行くぞ!』って。パスポートを持てって言うから、同じ国なのにどうして?って聞いたら、『そこは特別地区で、出入国みたいな手続きが必要なんだ』ってさ」

「あらまあ、大変そうねぇ」とおばあちゃん。

「お母さんが『明日は過酷じゃないわよね?』って聞いたら、お父さんは『当たり前だ!余裕だよ』って胸を張ったんだ。でも、あの笑顔を見た瞬間から嫌な予感しかしなかったよ」

 翌朝、僕たちは必要な荷物をスーツケースに詰め、リュックを背負って外に出た。

「まずは『新世紀』っていうホテルに行くぞ。そこなら日本人の出張客も多いし、日本語が聞こえるから安心だろ」

 タクシーに乗り込み、真ん中に座っていた僕の足元で、不意に何かが動いた。

「……っ! お父さん、足上げて! 小さいGがいる!」

 お父さんは平気な顔で「マットの下に入ったから大丈夫だよ」と言うけれど、お母さんは目を丸くして固まっている。おじいちゃんが「お父さんは逞しいなぁ」と苦笑いしていた。

 ホテルに着くと、目の前に観光バスが停まっていた。

「さあ、出発だ。トイレはついてないから今のうちに行っとけよ!」

 お母さんが絶叫した。「まさか、バスで行く気!? 新幹線もあるんでしょ!」

「もうチケットを取っちゃったんだから仕方ないだろ。行きはバス、帰りは新幹線でいいじゃないか!」

 お父さんの涼しい顔に、お母さんの怒りは頂点に達していた。

 バスに揺られること3時間。冷房が効いているのは救いだったけど、車内は現地の言葉と大音量のBGMで溢れかえっていて、お母さんは疲れ果てて眠ってしまった。国境の口岸に着くと、全員でゾロゾロと出国・入国手続きへ。

「地区が変わるから、バスも乗り換えだ。忘れ物するなよ!」

 お父さんの号令に、お母さんはもうフラフラだった。

 そこからさらに1時間。ついにチムに着いた。降りた途端、空気が変わった。

「うわっ、暑いしゴミゴミしてる……って、雨!?」

 上からポタポタ水が降ってくる。僕が慌てると、お父さんが笑った。「違うよ、あれはエアコンの室外機の水だ」

 お母さんはもう反応する気力さえ残っていないようだった。

「でも不思議とさ、お父さんのいた街より賑やかで、言葉も和む感じがして……飲茶を食べたらやっとホッとしたよ」

 おやつにトウモロコシとトマトを出してくれたおばあちゃんに、僕は言った。

「これだよ、これ! 日本の味が一番だよ!」

 僕の言葉に、おじいちゃんとおばあちゃんは大笑い。


僕たちの冒険は、まだまだ続きます。


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