番外編:【正式名称は?「切符の10(テン)」?「切符計算」?「10作り」?】
いつものようにおじいちゃんとおばあちゃんとタブレット越しに学校の話をしていた時、お母さんが突然思いついたように会話に入ってきた。
「ねえ、あれってなんて名前だったかしら? あれよあれ……」
(お母さん、それじゃ分からないよ……)と心の中で突っ込む僕をよそに、おじいちゃんとおばあちゃんも首をかしげている。お母さんは少し落ち着いて説明し始めた。
「今日、夏の異国の地へ行く準備のために二子玉のデパートへ行ったの。電車に乗ったんだけど、今は交通系ICでしょう? 昔は切符だったから、スマホもなくて暇で暇で……あの遊び、覚えてないかしら」
切符の4桁の数字を足したり、+・-・×・÷を組み合わせて『10』を作るあの遊びのことだ。
「そんな簡単な遊び、すぐ飽きないの?」と僕が言うと、「それが案外難しいのよ。なかなか10にならない切符があって、目的地に着くまで必死に試行錯誤するの。前に話した団地の友達4人と新宿に行った時も、誰が一番早くできるか競争したわ」とお母さんは懐かしそうに笑った。
すると、会話を聞いていたおばあちゃんが突然、「あなた、あの時白いワンピースを買ってきたわよね! 信じられなかったわ。そんなに浮かれるなら、もう子供だけで洋服を買いに行かせないって思ったんだから!」と、お母さんの過去の失敗を暴露した。
「もう、お母さん! 今は切符の遊びの話をしてるの!」と慌てるお母さん。
その時、おじいちゃんが「10作りじゃなかったか?」と言い、おばあちゃんが「私は切符計算だわ」と返し、お母さんは「確か『切符の10(テン)』って言った気がする」と、三者三様の答えが飛び出した。
「ねえ、結局どれが正解なの?」と聞いても、みんな自分が正解だと言い合っている。人によって呼び方が違うなんて、面白いなあ。
「ねえ母さん、昔の駅って今と違ってどんな感じだったの?」
僕が聞くと、お母さんは少し遠い目をして話し始めた。
「今の自動改札なんてなかったわ。切符を買って、駅の入り口にいる駅員さんに一枚ずつ手渡ししてね。『入鋏』って言って、駅員さんが専用のハサミでカチッ!と切符に切り込みを入れるの。時間や駅によってハサミの形が違ったりしてね。降りる時も手渡しで、駅員さんが『お疲れ様』なんて声をかけてくれたりして」
僕は驚いて目を見開いた。
「えっ、そんなに駅員さんがいたの? 今は駅員さんを見かけることなんてほとんどないのに。なんだかすごいね」
みんなが同じ時代を生きていたはずなのに、僕にとってはまるで異世界のような話だ。
「今度もし切符を買う機会があったら、僕もやってみるよ」
そう言うと、なんだかお父さんのいる異国の地へ行くのが益々楽しみになってきた。家族の何気ない日常の時間は、こうしてゆっくりと積み重なっていく。
物語はまだまだ、これからも続いていきます。




