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番外編:【秋川渓谷の記憶】

「ねぇお母さん、秋川渓谷って知ってる?」

不意に尋ねられ、「知ってるけど、どうしたの?」と問い返した。

「学校の友達が、家族みんなでキャンプに行くんだってさ。川がすごく綺麗で泳げるし、釣りもするらしいよ。おばあちゃんの家で海釣りはしたことあるけど、川釣りってしたことないなぁ」

その言葉を聞いて、ふと懐かしい記憶が蘇った。

「そういえば、以前話したでしょう? 引っ越した友達に会いに千葉の茂原まで行ったこと。その子のお父さんが、一度だけ私とその子を秋川渓谷に連れて行ってくれたことがあるのよ」

「えっ! じゃあお母さんも鮎釣りをしたの?」

「ううん、友達のお父さんは本格的な鮎釣りをする人だったから、『バシャバシャ音を立てると魚が逃げるから、少し下流で遊んでいなさい』って言われてね。私たち二人で川下の方で遊んでいたの」

それを聞いた子供は、驚いたように顔をしかめた。

「えっ、子供だけで下流に行くの? 危ないよ! 川で遊ぶときは大人から離れちゃダメだし、目の届かない場所に行っちゃダメだって、いつも注意されてるよ」

私は苦笑しながら答えた。

「そうなのよね。昔は今よりずっと大らかというか、放っておかれることも多かったわ。暗くなるまで遊んでいても誰も気にしない、そんな時代だったのよ。今考えると、少し怖い気もするけれど」

あの日の秋川渓谷は、眩しいほどに輝いていた。

太陽の光を反射してキラキラと揺れる水面。夏だというのに、川の水は凍るほど冷たくて、水に入っては震え、岸のひなたで温まるという繰り返し。結構な流れの場所で遊んでいたことを思うと、背筋が寒くなる。

「そういえば、大きな岩の上に荷物やおやつを置いていたのよ。おやつを食べようと思って、思いっきり岩に手を伸ばした瞬間、足に激痛が走ってね。慌てて岩の側面を見たら、大きな毛虫がいたの」

「ギャー! 虫は無理!」

話の途中で子供が叫んだ。

「刺されたというより、自分から虫に飛び込んでいったようなものね。私が騒いだら、釣りをしていて『静かにしろ』って言っていた友達のお父さんに、逆に怒られちゃったわ」

「えーっ! 虫に刺されたんだよ? 腫れたりするし、なんで怒るの?」

「『川の水で洗っておきなさい』って言われてね。素直に洗ったけれど……」

「信じられない! 川の水って見た目が綺麗でも菌がいるって何かに書いてあったよ。小学6年生の僕だって知ってるのに、昔の大人って適当すぎない?」

子供の呆れ顔を見て、思わず笑ってしまった。

「確かにね。でもね、その時、友達のお父さんが釣った鮎を河原で串焼きにしてくれたの。その味が、いまだに忘れられないほど美味しくて。足の痛みも忘れて夢中で食べたわ。結局、家に帰ったら足がひどく腫れていて、おばあちゃんがびっくりして病院に連れて行ってくれたのよ」

「……昭和の大人たちって、本当に大雑把すぎだよ」

子供は呆れながらも、どこか興味深そうに遠い夏の思い出に耳を傾けていた。


母子の冒険の旅はもうすぐ。

懐かしい記憶と新しい思い出が重なりながら、ワクワクはまだまだ続いていきます。

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