甘い麦茶と、とっておきのハム
食事の準備が整った食卓を見て、僕は固まった。
真ん中には見たこともない刺身が山盛りになっている。トマトにはなぜかマヨネーズではなく、白い粉――砂糖がまぶされていた。お味噌汁には魚の頭や骨が入っている。
「おばあちゃん、これ何?」
恐る恐る聞くと、おばあちゃんは当然のように「あら汁よ。おいしいから飲みなさい」と言う。恐る恐る口にすると、生臭さはあるものの、脂が乗っていて驚くほど旨い。
トマトも砂糖がけに戸惑ったが、庭で採れたてで井戸水で冷えていて、一口食べると甘みが爆発するように広がった。
「そういえば、お母さんに連絡しなきゃ……」
僕が慌ててスマホの充電器を探し出すと、おばあちゃんは「あんたがお風呂に入っている間に、とっくに連絡しておいたわよ」と笑った。おばあちゃん、気が利きすぎる。
どうしても刺身に手が伸びない僕を見かねて、おばあちゃんは魚肉ソーセージを醤油とマヨネーズで炒めた一品を出してくれた。
「魚肉ソーセージは魚『肉』なんだから、立派な肉料理よ!」
おばあちゃんが断言するので、僕は心の中で(それはちょっと違うんじゃ……)とツッコミつつ、味は最高だったので黙々と平らげた。
翌朝は、お母さんが起こしてくれる東京の朝とは別世界だった。カーテンと窓を乱暴に開けられ、タオルケットを剥ぎ取られて起床。食卓には温かいご飯と焼き魚、納豆とぬか漬け。
「今日は潮吹き岩を見に行くぞ」とおじいちゃん。
急いでスマホをチェックすると、アンテナが1本しか立っていない。窓際に行くと、なんと圏外になった。
「ここら辺は電波が不安定だからね。うちがいまだに黒電話なのはそのためだよ」
おじいちゃんの言葉に衝撃を受けた。スマホが使えないなんて、僕にとって死活問題だ。
おじいちゃんと一緒に向かった潮吹き岩は、バッサー!と岩の間から豪快に潮が吹き上がり、太陽の光でキラキラと輝いていて圧巻だった。
「気をつけろよ、あそこの穴に落ちたら二度と出て来れないんだからな」
おじいちゃんの不穏な冗談に青ざめつつ、昼過ぎに帰宅すると、食卓にはそうめんが用意されていた。
そして、おばあちゃんが「ジャーン!」と誇らしげに差し出したのは、なんと高級そうな分厚いハムだった。
おじいちゃんと出かけている間に、わざわざ山を降りて遠い商店まで買いに行ってくれたらしい。
(魚を食べてほしいって言ってたのに、結局ハムかよ……)
口には出さなかったけれど、東京の家でも食べたことがないような高級な味に、僕はすっかり満足してしまった。
午後は縁側で、電波を気にせずゲームに没頭する。やっぱり、ゲーム機を持ってきて正解だった。




