時を超えた田舎の風景
やっとおじいちゃんの車に乗ることができて、ほっとした。でも、おじいちゃんの車は家のとは何かが違う。おじいちゃんは左手でガチャガチャと忙しそうに運転している。
「おじいちゃん、それ何?」
尋ねると、「これはシフトレバーって言うんだ。車を操っているって実感が湧くから、昔からこれがお気に入りなんだよ。オートマ車なんかよりずっと運転が上手いんだぞ。若い者にはまだまだ負けんよ」
と胸を張るけれど、正直言ってこの車、かなりのおんぼろだ。道に凹凸があるたびに、お尻がポンポンとはねる。シートベルトをしているのに、どうしてこんなに揺れるんだろう。
バスに乗っていた時は高台から海が見えたけれど、おじいちゃんちへ向かう道には高い壁が続いていて、海なんて影も形も見えない。「防潮堤だよ」とおじいちゃんが教えてくれた。津波に備えてこんなに高く作られているのだそうだ。それがどれほど大切なものなのか、僕はまだよく分かっていなかった。
やがて、本当にここを登るの?と思うような険しい山道を越え、ようやくおじいちゃんちに着いた。家も車と同じくらい、味のあるおんぼろだった。
「さあ、大変だったろう。早く上がりなさい。荷物もさっきお母さんから届いているわよ」
おばあちゃんが笑顔で迎えてくれた。
「喉、乾いてない? 大丈夫? まずはこの冷たい麦茶を飲みなさい。お風呂も沸かしてあるから、汗を流してきなよ」
お母さんが送ってくれた段ボールから部屋着を取り出し、僕は麦茶を一気に飲み干した。
……うわっ、何これ?
思わず固まってしまった。麦茶が、甘い。
「おばあちゃん、この麦茶……甘いよ!」
驚いて伝えると、おばあちゃんは「砂糖が入っているんだから当たり前でしょ」と、当然のように笑った。この辺りでは普通のことなのだろうか。
そのまま案内されたお風呂場へ行って、さらに2度目のびっくりをすることになる。なんと、そこには「五右衛門風呂」があったのだ。
「知人の大工が半端な木材をたくさんくれるから、うちは今でも薪で沸かしているんだよ」
おじいちゃんが誇らしげに教えてくれる。一度温めると二、三日は冷めないらしい。
「板を沈めながら入るんだぞ。蓋をしないと熱くて火傷するから気をつけろ」
恐る恐る入る。浮き上がってくる木の板を足で沈めるのが難しい。おじいちゃんが一緒に入って教えてくれなかったら、きっと大火傷をしていたに違いない。それでも、薪で沸かしたお風呂は格別に気持ちよかった。
おじいちゃんの家には、お父さんが単身赴任で海外に行く前、僕が幼稚園の頃によく来ていたらしい。断片的な記憶はあるけれど、何せ幼かったし、滞在も短かったからほとんど覚えていない。
そんなことを考えていたら、急激にお腹が空いてきた。今日は移動が長かった。新幹線で食べたおにぎり以来、ろくに食事をとっていない。緊張のせいか、駅のコンビニで買ったスナック菓子もあまり喉を通らなかったのだ。
お風呂から上がり、おじいちゃんとおばあちゃんが準備をしてくれている台所へ向かう。低いテーブルが置かれた、いかにも田舎の家らしい食事スペース。
テーブルにドンと置かれたおかずを見て、僕は再び固まってしまった。




