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充電0%の夏休み

ぼくの手の中にあるスマートフォンは、世界中のことを知っているつもりでいたけれど、お母さんの子供時代のことは、なにも知らなかった。

とうとう長い夏休みが始まってしまった。お父さんは今、海外へ単身赴任中だ。パートに出ているお母さんは、普段ならぼくが帰宅する時間には家にいるけれど、夏休みに入ってからは昼間ぼくはひとり留守番をしている。普段学校に行けば友達がいるけれど、塾や習い事で忙しい彼らは、夏休みになるとパタリと姿を消してしまう。

暑すぎて外で遊ぶ気にもなれないぼくは、ずっとゲームの世界に浸っていた。でも、オンラインで知らない人と遊んでいるのがバレて、お母さんに制限をかけられてしまった。別に危ないことなんてしていないのに、サ。

宿題の日記だって、毎日ダラダラとゲームをしているだけだから、書くことがない。天気と夕飯のメニューを書くだけの、退屈な日々。そんなある日、お母さんが突然言い出した。

「あんた、明日から東北のおばあちゃんとおじいちゃんのところに行きなさい」

スマホのSNS越しに話したお父さんからも「楽しいぞ!」なんて言われて、断る隙もなかった。お母さんはぼくの荷物と宿題、自由研究のプリントを大きな箱に詰め込み、さっさと宅配便で送ってしまった。

本当はお母さんが連れて行ってくれるはずだったけれど、パート先で友人が怪我をした代わりに出勤しなさいと言われ、急遽行けなくなってしまった。ぼくは「スマホさえあればどこへだって行けるよ」と強がって、リュックに財布とチケット、そしてお母さんに内緒でゲーム機を隠し入れて家を出た。心配そうに手を振るお母さんの顔を、振り返らずに。

バス、電車、新幹線、そしてまた在来線。乗り継ぎに乗り継いで、最後は一時間以上もかかる山あいのバスに揺られた。ここはどこだろう。一日かかってしまった。地図アプリで予習はバッチリだし、何事もなく着けるはずだ。

「最近は交通量が多くておじいちゃんの運転も心配だから」と、バス停まで迎えに行くというおばあちゃんの申し出を断った。地図があるから大丈夫だ。

目的のバス停に着くまでは、一面の田園風景と緑、緑、緑の細い山道だった。あれ、海に来たはずなんだけどな――と首をかしげていたら、急に目の前が開け、青い海が飛び込んできた。

次のバス停でおばあちゃんに連絡を入れようとした、その時だった。

画面が真っ暗になった。

「途中途中で連絡しなさいよ」とお母さんに言われて、まめにメッセージを送っていたせいか、バッテリーが力尽きてしまったのだ。

目的地まであとどれくらいあるのか、道は合っているのか。地図アプリを失ったぼくは、急に心細くなった。これからどうしよう。不安で立ち尽くしていたぼくの目に、一台の車が映った。

「おーい! よく来たのう!」

満面の笑みで手を振るおじいちゃんとおばあちゃん。その顔を見た瞬間、ぼくの肩から力が抜けた。

こうして、ぼくの、少し不思議な夏休みが始まった。


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