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番外編:【しょっぱいカレーと、甘い二人のお話】

アルバムの話が終わった頃、おじいちゃんがふうっと一息つき、何事もなかったかのようにすーっとこたつに戻ってきた。

僕たちは、おばあちゃんが入れてくれた温かいお茶を飲んだ。僕は渋いお茶が大好きだ。田舎ではお茶を椀になみなみと継ぎ足されるのが嬉しくて、ついお腹がタプタプになってしまう。お茶請けは、おばあちゃんのぬか漬けや素朴なせんべい。僕たちがいるときは、クッキーやチョコレートも用意されている。

まったりとお茶を飲んでいるとき、以前おじいちゃんが話してくれたことを思い出し、僕は聞いてしまった。

「おばあちゃん、なんでおじいちゃんに作った初めてのカレーがしょっぱかったの? カレールーを買えば失敗なんてしないよね。おばあちゃん、今じゃ料理上手なのにどうして?」

僕の問いかけに、おばあちゃんが一瞬言葉に詰まり、おじいちゃんの方を見て軽く睨みをきかせた。おじいちゃんはまたこたつから逃げ出そうとしたが、おばあちゃんに腕を掴まれ、観念したように座り直した。おじいちゃん、諦めが肝心だよ、と僕は思った。

おばあちゃんが語り始めた。

「あの頃、お屋敷での私の仕事は子供の世話一筋。24時間、寝るときも一緒だったから、家事なんて一切しなくてよかったの。料理もプロの料理人さんが作ってくれていたから、作り方なんてちっとも知らなくてね」

おばあちゃんが中学を出て東京に出てくるまで、故郷では土間で竈門かまどを使ってご飯を炊いていたという。

「ひいおばあちゃんを手伝っていたから、火加減はお手の物。薪をくべるのはバッチリよ」

おばあちゃんは少し自慢げに笑った。しかし、東京のお屋敷は別世界だった。

「お屋敷は当時でもう都市ガスが通っていてね。ガスコンロがあったの。薪を拾わなくても、スイッチひとつで火がつくのよ。火加減の調整も簡単で、本当に魔法みたいだと思ったわ」

旦那様が外国人だったこともあり、お屋敷ではハイカラな料理が振る舞われた。中でも料理人が作るカレーは、見たこともない香りと味で、おばあちゃんにとって忘れられない味になったという。

「おじいちゃんと結婚して、さあ料理を始めようと思ったとき、真っ先に思い浮かんだのがあのカレーだったの。でも、プロの香辛料は高くてなかなか手に入らない。そんなとき、商店街の雑貨屋さんが『新しく出たカレールーだよ』って声をかけてくれてね。これなら私にもできる!って飛びついたのよ」

しかし、初めての挑戦はうまくいかなかった。

「今のルーと違って当時は味がぼやけていたから、自分で塩を足さなきゃと思ってね。東北出身だから濃い味が好きだし、どれくらい入れたらいいか加減もわからなくて、思いっきり入れたの。味見をするってことも知らずにね」

初めての家庭料理を食卓に出すと、おじいちゃんは一口食べて一瞬固まった。それでも「すごいおいしいよ」と言って、カレーを一口食べるごとにご飯を三口もかきこんでいたという。

「おじいちゃんは白いご飯が好きなんだなぁって、その時は本気で信じていたの。でも、私も食べてみたら……あんな衝撃は初めてだったわ。しょっぱいのなんのって!」

慌てて「食べちゃだめ、体に悪いよ!」と止めたけれど、おじいちゃんは「おいしいよ」と笑って最後まで全部食べてくれた。ご飯を何杯もおかわりし、水を何杯も飲みながら。

「申し訳なくてね。それからは、おじいちゃんを喜ばせたくて必死で料理を覚えたわ。お屋敷の味を参考にしたり、近所の人に教わったりしてね」

おばあちゃんが懐かしそうに締めくくると、おじいちゃんがすかさず「あのしょっぱいカレーも、今思うと最高においしかったよ」とフォローを入れた。

カレーは辛いけれど、二人の間の雰囲気はとても甘い。まるで砂糖が口いっぱいに広がるような、不思議で温かい話だった。お母さんも、僕と同じように柔らかい顔で笑っていた。


まだまだ番外編は続きます

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