番外編:【酔いどれ花婿と、真っ白な花嫁】
番外編:【酔いどれ花婿と、真っ白な花嫁】
お正月でまったりとした時間が流れる中、ふと退屈を感じた僕は、あることを思いついた。
そういえば、お母さんにあの「自転車に乗った少女時代のおばあちゃん」の写真を見せていなかった。僕はお母さんを誘い、少しひんやりとした空気が漂う納戸へと向かった。
お目当てのアルバムを広げていると、その隣に、見たことのない重厚なアルバムがあることに気がついた。僕は興味を惹かれてそれを引き出し、お母さんと一緒に覗き込んだ。
ページをめくると、そこにはおじいちゃんとおばあちゃんの結婚式の写真があった。白黒写真なのに、それがかえって二人の若さを際立たせていた。おじいちゃんは俳優のようにキリッとしていて、おばあちゃんは女優のように美しい。二人とも、肌がピカピカに輝いているようだった。
「何やってるの?」
納戸の入り口に、おばあちゃんが顔を出した。
僕とお母さんは顔を見合わせてニヤニヤしながら、手元の写真を見せた。「おばあちゃんたちの結婚式の写真だよね!」
おばあちゃんは納戸に入ってきて、「あらまぁ」と照れ臭そうに笑った。その様子を見ていたおじいちゃんも気になったのか、後ろからひょっこり顔を出した。「どうしたんだ?」
僕はすかさず声をかけた。
「おじいちゃん、かっこいいね!俳優さんみたいだよ。この結婚式の写真、すっごい決まってる!」
そう言うと、おじいちゃんは急に慌てたような顔をして、恥ずかしさのあまり別の部屋へと逃げ出してしまった。居間の方へ逃げたものの、アルバムを見られるのが嫌なのか、決してこちらへは戻ってこようとしない。
「なんだろうね?」
僕たちも納戸の寒さに耐えきれなくなり、そのアルバムを抱えて居間のこたつへと向かった。おじいちゃんは別の部屋の隅で、遠くから僕たちがアルバムを開くのを、頑なに避けるように隠れている。
こたつで暖を取りながら、アルバムの次のページをめくった。
そこには披露宴の時の写真があった。現代の華やかな結婚式とは違う、厳かな空気。参列者は皆、紋付き袴や黒留袖を纏っていて、とにかく黒・黒・黒。そんなモノトーンの世界の中で、真っ白な白無垢を着たおばあちゃんだけが、光を放つように際立っていた。
「披露宴、すごく緊張したわ」
おばあちゃんは写真を見つめながら、ぽつりと話し始めた。
ねえやとして働いていたお屋敷の旦那様と奥様が、親代わりとなって開いてくれた披露宴だったこと。田舎からひいおじいちゃんやひいおばあちゃん、そして弟妹たちも駆けつけてくれたこと。当時は仙台から東京まで汽車で10時間以上。まるで海外旅行に行くような大冒険だったはずだ。
田舎の結婚式といえば、家で近所の人たちが総出で手伝い、男たちはただ座って酒を酌み交わすのが常だった。けれど、東京の料亭での披露宴は違った。誰も手伝わずに座って料理を味わえること、そして何より、芸術品のように飾られた洗練された料理の数々に、田舎から来た親戚たちはひどく驚いたそうだ。
「お父さんとお母さんの結婚式の話なんて、初めて聞いたわ」
お母さんは目を輝かせて、楽しそうにおばあちゃんに見入っている。
そんな中、おばあちゃんがふふっと笑って、僕たちに耳打ちした。
「……実を言うとね、この時おじいちゃん、緊張しすぎてお酒を飲み過ぎて、披露宴の途中で寝ちゃって大変だったのよ。おじいちゃんには内緒ね」
外の冷たい空気とは裏腹に、足元のこたつはぬくぬくと温かい。
おじいちゃんの秘密を知って、僕の胸の中までなんだかほっこりと温かくなった。
そんな、静かで心温まるお正月だった。
家族の歴史をめくる時間は、まだまだ終わらない。僕の物語は、これからもこうして続いていく。




