番外編:【幻の小判と、ひいおばあちゃんの矜持】
今年の冬は、お母さんと僕でお正月を三陸のおじいちゃんとおばあちゃんの家で過ごすことになった。本当はお父さんも来る予定だったのだけど、仕事でどうしても帰れなくなったと、タブレットの画面越しに涙目で訴えていた。
今年のお正月は、おばあちゃんが料理をとても張り切っている。
普段はおじいちゃんと二人暮らしで、近所の人が来る程度だから気合を入れたおせちなんて作らないそうだが、僕たちが行くとなれば話は別らしい。年末ギリギリに田舎に到着したお母さんは、長旅の疲れも見せず、さっそくおばあちゃんとおせち料理作りに加わった。
おばあちゃんが作る、素朴で豪華な田舎のおせち。
お母さんが腕をふるう、ローストビーフや唐揚げといった僕の好物。
テーブルが賑やかになっていく。
大晦日の夜、みんなで囲んだのは年越しそばだった。
「年越しそばって、夜中の十二時に食べるんじゃないの?」と不思議に思ったけれど、おじいちゃん家では「お酒を飲みながら夕飯に食べる」のがルールらしい。まったりとおせちの味見をしながら、僕の大好物である「たけのこの煮付け」を頬張る。
「これ、本当に美味しい!」
僕がそう言うと、おばあちゃんは「あら、よかったわ」と目を細めて笑った。
そんな穏やかな時間の中で、おばあちゃんがふと、昔の話をしてくれた。
おばあちゃんの家には妹弟が多く、その中で唯一の男の子だった弟は、とてもやんちゃな子だったそうだ。ひいおじいちゃんが戦後の遠洋漁業でマグロ船に乗り、何ヶ月も家を空けていた頃の話である。
弟がまだ小学生の低学年だったある日、近所の竹林で友達と鬼ごっこをして駆け回っていた時のこと。地面から突き出た木の杭につまずいた弟は、腹を立ててその杭を思いっきり蹴り飛ばした。
すると、なんと地面の中から小判がザクザクと現れたのだ。
驚いた子供たちは、弟がかぶっていた帽子に小判を詰め込み、大興奮で持ち帰ったそうだ。
「おばあちゃん、それって今ならSNSで大バズりだよ!『隠し埋蔵金大発見』って感じでさ」
僕が興奮して口を挟むと、おばあちゃんは少し不思議そうな顔をして話を続けた。
弟は小判をひいおばあちゃんに差し出した。いつも船で苦労しているひいおじいちゃんのために、これで楽をさせてあげたかったのだ。
ひいおばあちゃんは小判の入った帽子を受け取ると、少し固まった。そして、無言のまま家を出て行ったそうだ。
夕飯のご馳走を期待していたおばあちゃんたちを待っていたのは、いつもの薄いお粥と焼き魚だった。
「なんで今日ご馳走じゃないの?小判がいっぱいあるのに!」
弟がそう叫ぶと、ひいおばあちゃんはただ一言、「あの小判は、山の持ち主のところに返してきたよ」と言ったそうだ。
僕は納得がいかなかった。「警察に届けたら、報償金がもらえる権利があるはずだよ!」と急いでネットで調べ始めた。
おばあちゃんは静かに笑った。
「あの頃のこの場所は閉鎖的でね。人の土地で拾ったものを使うと祟りがある、なんて言い伝えもあったのよ。それに、ひいおばあちゃんは言ったわ。船に乗って命がけで家族を養っているひいおじいちゃんに恥をかかせるな、そんなお金をあてにするような人間に育つな、ってね」
ひいおじいちゃんの本家は、お公家さんだったらしい。だからこそ、どんなに貧しくても誇りを守りたかったのかもしれない、とおばあちゃんは言った。
「その小判、今なら大騒ぎだよ。結局誰にも知られなかったの?」
僕の問いに、おばあちゃんは首を振った。
「戦後のゴタゴタしていた時だからね。それからは、誰の口にも上らなかったわ」
納得できないような、でも少し胸が熱くなるような不思議な気持ちで大晦日を過ごす。
夜が更け、僕が頑張って起きていると、遠くから除夜の鐘の音が聞こえてきた。
小判の煩悩よ、消えてしまえ。
三陸の夜空に、静かに響き渡っていた。




