番外編:アイツの話【東京もんとの夏休み】
今年の夏、地域の全員が顔見知りなこの小さな町に、東京から俺と同じ学年の「そいつ」が夏中遊びに来るって聞いた。東京から来るなんてどんな奴かと思えば、母ちゃんと婆ちゃんが「何日も家に引きこもってゲームばかりしているらしい」「スマホの電波も入らないって嘆いている」と話しているのが聞こえてきた。
スマホをまだ買ってもらえない俺からすれば、なくても不便なんて感じないし、強がりじゃない。それに、そいつは魚が食えないからって、婆ちゃんがわざわざ遠くの店までハムを買いに走っているのを見た。信じられない。うちでそんなわがまま言ったら、母ちゃんにどんな目に合わされるか分かったもんじゃない。
ある日、そいつの婆ちゃんに頼まれて、俺と仲間たちで海へ連れて行くことになった。インドアな奴と遊べるのか不安だったが、当日、そいつの爺ちゃんが車で送ってきて、俺たちに「頼んだぞ」と言って去っていった。
海に入っても、そいつはなかなか馴染めない。皆で引っ張り込んで水をかけ合ったり泳いだりしたんだが、俺たちがいつものように海藻を投げ合って遊んだとき、そいつは「ムリッ!」って叫んで岸へ上がり、タオルをかぶってゲーム機を取り出した。俺たちは顔を見合わせた。信じられないものを見るような目だったが、まあ「東京もん」だし仕方ないのかな、と納得した。それ以来、そいつは海に来なくなった。
あの海藻の一件、なんだか俺と仲間たちの中でずっと罪悪感が残っていたんだ。それで、みんなで話し合って、朝のラジオ体操の後にそいつの家に押しかけることにした。
少し戸惑っていたみたいだが、結局そいつは外へ出てきて、それからはみんなと遊ぶようになった。
帰る前の晩にはお別れ会をして大盛り上がりだった。連絡先を交換しようとなったが、俺はスマホを持っていないから、持っている奴の連絡先を教えることになった。俺は家の黒電話の番号を伝えた。
出会いは最悪だった。でも、振り返ってみれば楽しい夏だった。ただの「東京からの転校生(みたいな奴)」じゃなくて、これからもずっと友達として付き合っていけそうな気がしている。
「家族の小さな物語は、まだまだ番外編として続いていきます。」




