番外編:魔法の箱と三陸の家族① 〜正座のタブレット〜
秋の連休、「ぼく」とお母さんは鮭の遡上を見に三陸の祖父母の家へ駆けつけた。そこで知ったのは、かつて映画を愛したおばあちゃんが、歳を重ねた今は映画館へも行けず、寂しい思いをしているという事実だった。
「おばあちゃんに、もう一度映画を見せてあげたい」。そう考えたぼくの提案に、お母さんも大賛成した。普段なかなか連絡がつかない高齢の二人を心配していた両親にとって、これが実現すれば見守りにもなるという大きな安心感があったからだ。
しかし、おじいちゃんは「じいちゃんには黒電話があれば十分だ」と頑なだった。それでも、「毎日ぼくと顔を見て話せるんだよ」という孫の説得に、最後は折れてくれた。
工事当日、ぼくたちは行けないため、地元の友人「アイツ」とお兄さんが立ち会ってくれることになった。業者さんとおじいちゃんが配線で激しく揉めている様子を、お兄さんがスマホで中継する。画面越しに繰り広げられる阿鼻叫喚のドタバタ劇だったが、ぼくの必死のサポートで、ついに三陸の小さな家に「魔法の箱」ことタブレットとケーブルテレビが開通した。
開通して数日後のこと。
毎日決まった時間に鳴る「ぼく」からの着信。そのたびに、おじいちゃんは急いでタブレットの前へ行き、背筋を伸ばして正座をする。そのタブレットの下には、おじいちゃんが普段座っている座布団とお揃いの、小さな手作りの座布団がちょこんと敷かれていた。
機械が苦手だったおじいちゃんにとって、そのタブレットは孫の顔を映し出す大切な、大切な魔法の窓になった。
夜になると、ケーブルテレビの大きな画面には、おばあちゃんが少女時代に映画館で観て心を躍らせた『ローマの休日』が映し出されている。古いアルバムの中で輝いていたあの少女の面影を重ねるように、おばあちゃんは夢中で画面を見つめ、隣ではおじいちゃんがその横顔を眺めている。
三陸の冬はまだこれからだけれど、魔法の箱が届けてくれた温もりは、もう家族の間にしっかりと根付いている。
おじいちゃんたちの日常は、これからも静かに、そして少しずつ賑やかに変化していくはずだ。
家族の小さな物語は、まだまだ番外編として続いていきます。




