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番外編:お母さんと僕の話 【ホタルの光と、夏の天の川、お母さんの背中に隠したこと】

夏休み、おじいちゃんとおばあちゃんの家から帰ってきてから、僕たちの生活は少しだけ変わった。

夏休み前、学校から帰ると僕はいつも、おやつを食べるなりすぐ部屋へ行ってゲームをしてしまっていた。お母さんも忙しそうで、僕がおやつを食べている間、一緒にテーブルに座ってくれることはなかった。

けれど今はおやつを準備すると、お母さんは目の前の席に座ってくれる。僕も食べ終わってもすぐには席を立たず、学校であった出来事や、夏に経験した話を少しずつ話すようになった。

「……ねえ、お母さん。子供の頃に田舎へ行った時、ホタルって見たことある?」

僕がふと思い出して聞くと、お母さんは少し懐かしそうな顔をした。

「うーん、そうねえ。私が行っていた頃は、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが元気で、親戚がたくさん集まっていていつもドタバタしていたわ。潮吹き岩のあたりへ行ったり、石巻の港を見学したり、海で遊んでばかりいた記憶があるわね。……ホタルは見たことなかったわ」

お母さんは楽しそうに笑ってから、僕の目をまっすぐ見て続けた。

「でもね、あのあたりの沢は本当に空気がきれいなのよ。夜になったら、都会じゃ絶対に味わえないような、降ってくるような星空が見えるはずよ。あんなに澄んだ空は、どこを探してもなかなかないの。あなたも見たでしょう?」

「うん! 実はあの神社にお参りに行った夜、おじいちゃんとおばあちゃんに連れて行ってもらったんだよ」

僕がそう言うと、お母さんは目を丸くした。

夕ご飯の後、おじいちゃんとおばあちゃんが「秘密の沢の様子を見に行こうか」と言い出して、3人で出かけたこと。僕が長靴を履いて虫除けスプレーを全身にたっぷりかけたこと。

「雨でもないのに、どうして長靴?」と疑問に思っていたら、おじいちゃんが「マムシ対策だよ」と教えてくれて、僕がその場で固まってしまったこと。それを聞いてお母さんは、「虫除けスプレーをたっぷり全身にかけたら、蛍も逃げちゃうんじゃないかって心配したんでしょう?」と笑った。

「おじいちゃんがライトを消した途端、真っ暗な沢に緑の光がたくさん浮かんできたんだ。あれが源氏蛍だよって教えてくれたんだけど、あまりにも綺麗で……。おばあちゃんがね、『ホタルは普通6月から7月が見頃なのに、8月にこうして舞ってくれるなんて、本当に奇跡だわ』って、涙ぐみながらずっと見つめていたんだ」

おじいちゃんが突然、「今度は上を向いてごらん」と言ったこと。見上げると見たこともない満天の星空が広がっていて、天の川まで見えたこと。

お母さんは僕の話を、とても嬉しそうに聞いていた。

でも、話の最後に僕はふと思い出したことを口にした。

「そういえば作文の宿題のために聞いたんだけど、『カラス追い』っていう行事のこと、おじいちゃんたちに聞いたら知らないって言ってたよ」

その瞬間、お母さんは一瞬だけ気まずそうな顔をした。けれど、次の瞬間にはいつもの優しい笑顔に戻り、僕の鼻先をちょんと突いた。

「……宿題があるんでしょう? 早くしなさい」

そう言ってベランダへ向かうお母さんの背中は、なんだか少しだけ急いでいるように見えた。

「これは、これ以上聞いちゃいけないやつだな」と僕は直感して、慌てて自分の部屋へ駆け込んだ。

(※この『夏のタイムカプセル(略して夏カプ)』の世界は、番外編としてまだまだ続きます。おじいちゃん・おばあちゃんの家にインターネットをつなぐドタバタ劇なども執筆予定ですので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!)

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