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番外編:お母さんの話 【三陸の海へ、祈りを込めて送り出した夏】

私の小さい頃は、今思うとかなりやんちゃだった。団地の芝生を駆けまわり、男の子とも女の子とも分け隔てなく遊ぶ毎日。男の子たちからは、なぜか「ゴッド姉ちゃん」と呼ばれていたほどだ。

当時、絶大な人気を誇るアイドルがいた。彼女の顔が描かれた自転車「ドレミ・マミちゃん」は、子供たちの憧れの的だった。なかなか手に入らない貴重な品だったけれど、誕生日にようやく買ってもらうことができた。

かごにはちゃんと彼女の顔がついている。私は嬉しくて近所を乗り回した。けれど、本物を持っていた友達に「それは偽物だ」と言われてしまった。お姫様のティアラの形が少しだけ違っていたのだ。

私は大泣きして帰宅した。母に「どうしたの」と聞かれたけれど、私が傷つくのを恐れて無理をして買ってくれた両親を想うと、「偽物だった」なんて口が裂けても言えなかった。

その前年のクリスマスには「ミカちゃん」と「ミカちゃんハウス」をねだった。どうしても欲しくてたまらなかったそれを誕生日プレゼントとしてようやく手に入れたのに、遊んでいた目の前で、ふざけて倒れ込んできた両親に大事なハウスを潰されてしまった。

一生懸命直してくれようとする二人の姿を見たけれど、一度歪んだ家は元には戻らなかった。それ以来、私は家の中で遊ぶことよりも、外で駆け回る遊びばかりを選ぶようになった。

だからこそ、自分の子供が家の中でゲーム機ばかりに向かっている姿を見ると、どうしようもなく焦ってしまうのだ。

夫は単身赴任中でなかなか帰国できない。画面越しに子供と毎日のように話しているけれど、子供も寂しさを抱えているのだろう。私も教育資金とマンションのローンを返すため、母がそうしていたように、働ける時には働くしかない。

普段は子供が帰宅する前に仕事から戻るけれど、夏休みは昼間も仕事がある。年の割に大人びている子だけれど、ある日オンラインゲームで知らない人と遊んでいるのを見つけて慌てて制限をかけた。「悪いことなんてしていないよ」と子供は言うけれど、このまま家でゲームばかりの生活ではいけない。

画面越しに夫と相談し、思い切って三陸の海に住む私の両親のもとへ、子供をひと夏預けることにしたのだ。

送り出した時、子供は振り返りもしなかった。寂しさをこらえて見送った。

道中は連絡をくれていたけれど、バスに乗ってからはパタリと途絶えた。電波が届かない場所なのだ。私は毎日、実家の黒電話に電話をかけ、両親から様子を聞いては夫に伝え、子供のいない寂しさを紛らわせた。

夏が終わりに近づき、駅へ迎えに行った。改札を出てきた子供は私に駆け寄ってきて、最近ではしなくなったはずの抱きつきをしてくれた。背は少し伸び、日焼けした姿は以前よりたくましく見えた。

夕飯の時、ビシソワーズを音を立てて一気飲みした子供を、つい注意してしまった。けれど、ふてくされることもなく、素直に言葉を受け止めた姿を見て、胸が熱くなった。

やっぱり、三陸の海に送り出してよかった。

あの時私を守ってくれた両親に、そしてたくましく成長してくれた子供に、心からの感謝を。

(※この『夏のタイムカプセル(略して夏カプ)』の世界は、番外編としてまだまだ続きます。おじいちゃん・おばあちゃんの家にインターネットをつなぐドタバタ劇や、おじいちゃん視点のエピソードなども執筆予定ですので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!)

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