番外編:おばあちゃんの話 【平和の味がした、魔法のハム】
戦争が終わったばかりの頃。この田舎にもGHQがやってくるという噂が流れ、私は「女の子なら髪の毛を坊主にして隠れていなさい」と大人たちに言われ、ずっと屋内で息を潜めていた。さすがに坊主にはしなかったけれど、戦地から帰らないお父さんの帽子を探し出し、深くかぶって髪を隠し、ただ怯えて過ごしていた。
しかし、私の弟は好奇心に勝てなかったようだ。仲間たちと連れ立って、初めて見る外国の兵士たちをこっそり見に行ったのだ。
しばらくして戻ってきた弟の手には、見たこともない缶詰が握られていた。兵士たちがくれたという、チョコレートと「ハムの缶詰」だった。
初めて見る外国の食べ物。どうやって食べるのかもわからず、お母さんがあれこれと試行錯誤した末に、それを火で焼いてみた。
立ち昇る香ばしい匂い。それは、長年戦火に怯えていた家族にとって、この上ない「平和の香り」だった。
けれど、私はまだ箸をつけられなかった。
あの日、B29の機銃掃射が家を襲った光景が、どうしても忘れられなかったからだ。必死の思いで畳を上げ、その下で震えていた私。家の中にまで戦争の記憶が生々しく残っていて、どうしても食べる気になれなかったのだ。
そんな私を見て、お母さんは毅然と言った。
「たくましくなりなさい。食べられる時には食べなさい。今度いつ食べられるか、なんて誰にもわからないんだから」
そう言って、家族みんなでハムを少しずつ分け合って食べた。
その一口が、私にとっての初めての「ハム」であり、戦争が終わったという確かな安心の証になった。
あの時、お母さんが焼いてくれたハムの味。
当時のお母さんの歳を遥かに超えた今でも、私は忘れることができない。
あれ以来、家族を想って焼くハムには、いつだってその日の祈りを込めている。今、孫までできた私が「祈り」というスパイスをかけてハムを焼くのは、あの時のお母さんから受け継いだ大切な習慣なのだ。
(※この『夏のタイムカプセル(略して夏カプ)』の世界は、番外編としてまだまだ続きます。おじいちゃん・おばあちゃんの家にインターネットをつなぐドタバタ劇や、おじいちゃん視点のエピソードなども執筆予定ですので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!)




