緑のトンネルを抜けて、あの日の祈りに触れる
嵐が過ぎ去った翌日は、嘘のような快晴だった。
後片付けに追われるおじいちゃんとおばあちゃんを眺めながら、僕は久しぶりにゲーム機を手に取った。けれど、どうも落ち着かない。そんな僕を見かねたのか、昼食を終えると、おじいちゃんが誘ってくれた。
「ひいおばあちゃんが通った、あの神社へ行ってみないか」
おじいちゃんのおんぼろ愛車に乗り込み、海沿いの道を進む。
目的地に着くと、目の前には以前見たのと同じ防潮堤がそびえ立っていた。けれど、不思議とあの時のような圧迫感はない。この壁が、今の僕たちの暮らしを静かに守ってくれているのだと知ったからかもしれない。
「ここだよ」
おじいちゃんが指さした先には、息をのむほど急な階段が続いていた。幅も狭く、一歩踏み外せば転げ落ちてしまいそうだ。ただ、新しく設置された手すりだけが、今の時代と僕を繋いでくれているように思えた。
「よし、行こうか」
僕たちは一歩一歩、慎重に足を運び始めた。
両脇から木々がせり出し、まるで緑のトンネルをくぐっているようだ。
「普段は誰もいないけれど、近所の皆で交代して手入れをしているんだ」
階段を登りながら、おじいちゃんが教えてくれた。この急な坂を、かつてひいおばあちゃんは毎日一人で登り続けたのだ。
ようやく登りきった場所には、静寂に包まれた本殿が佇んでいた。
ひんやりと張り詰めた空気に、自然と背筋が伸びる。
「ここよ。ひいおばあちゃんが、ひいおじいちゃんを帰してと毎日祈った場所は」
おばあちゃんの言葉に、僕は深く頭を下げた。
3人で静かにお参りを済ませて振り返ると、そこには青い海と、どこまでも広がる緑の山が息を呑むほどの美しさで輝いていた。
あの急な階段は、ただの階段じゃない。
悲しみや不安を抱えた人たちが、希望を見つけるために登り続けた場所なんだ。
僕は防潮堤の先に見える海を眺めながら、この地で紡がれてきた祈りの強さを、全身で受け止めていた。




