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停電の夜は、魔法のハムが心に安らぎを灯してくれる

おじいちゃんがふと空を見上げ、言った。

「今夜は嵐が来る。早めに雨戸を閉めて休んだほうがいい」

その言葉を聞いて、おばあちゃんはすぐに立ち上がった。縁側のそばに干していた洗濯物を取り込み、手早く片付けを済ませて夕飯の支度を始める。おじいちゃんも手慣れた様子で雨戸をすべて閉め、「暗くなる前に風呂に入っておけ」と促した。

おばあちゃんの料理が並び、さあ食べようとしたその時だった。

ピカッと空が裂け、ドカンという凄まじい音が響いた。僕は驚いてその場に固まってしまう。さらに二度目の雷鳴が轟くと、ふっと視界が暗転した。完全に停電だ。

慌てる僕をよそに、おばあちゃんは落ち着いた様子で懐中電灯に灯りをともした。おじいちゃんも手際よくロウソクに火を灯してくれる。

こんな暗闇の中でご飯を食べたことなんて、今まで一度もなかった。3.11の時も、僕はたまたま計画停電の対象外の地域にいたから、いつ消えるかという不安はあっても、明るい中で過ごせていたからだ。

そんなことを考えていると、ロウソクの光を見つめながらおじいちゃんがぽつりと呟いた。

「……あの時は、東京も何日も夜になると真っ暗になったものだ」

おばあちゃんも、遠い目をして続けた。

「ええ。事前に浴槽に水を溜めて、夕飯も簡単なものを用意してね。あの時間は、おじいちゃんと二人で本当に大変だったわ」

当時のことを聞くと、東京にいた二人は、この田舎に一人でいたひいおばあちゃんと何日経っても連絡がつかなかったそうだ。ようやく安否の知らせが届いたのは、震災から一週間も過ぎた頃のことだったという。

「心配で心配で、駆けつけたくてもどうしようもなかった。……それがきっかけで、私たちはこの地へ帰ってくることに決めたのよ」

ゆらゆらと揺れるロウソクの炎。

僕は、おばあちゃんが少し厚めに切って焼いてくれたハムを口に運んだ。不思議と、このハムを食べていると、どんなに暗い夜でも心がじわじわと温かく満たされていく。まるで、ハムに魔法がかかっているみたいに。

暗闇は怖いけれど、こうして二人と一緒にいれば、なんだか不思議と落ち着く。外で猛威を振るう嵐の音さえも、今はどこか遠い世界の出来事のように思えた。

おばあちゃんが作るこのハムには、もしかしたら僕の知らない、何か大切な「物語」や祈りが隠されているのかもしれない。そんなことを思いながら、僕は最後の一切れを、ゆっくりと味わった。

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