番外編:【お父さん、それはまずいって…】
僕が自分の部屋に逃げ込んだ日の、夕飯を食べた後だった。単身赴任で異国の地にいるお父さんと、東京にいる僕とお母さんの3人で画面越しの会話が始まった。僕がお父さんに向かって「今日お母さんすごい大変でお疲れモードでかわいそうだったんだよ」と言うと、お父さんが「どうしたんだ?」と聞いてきた。そうするとお母さんが今日スマホショップでのお母さんの壮絶な苦労話をはじめた。お母さんはお父さんに熱く熱く語りかけていた。それを聞いたお父さんは画面越しにこっちをじっと見て、お母さんの目を離さず、こともなげにこう言い放ったのだ。
「そりゃあ、メーカー側からすれば、古い機種に合わせて新しいOSをわざわざ開発し続けるメリットなんてないからな。ビジネスなんだから仕方ないだろ」
……あ。
僕のなかの危機管理センサーが、さっきとは比べ物にならないほどの最大の警告を僕にした。
(お、お父さん……! 今、一番言っちゃいけないお母さんの逆鱗に触れた。お父さん、まずいって!なんで言っちゃうの……!!)
「は……? なにそれ?」
ピタリと、お母さんの動きが止まった。さっきまでぐったりしていたはずが、一瞬で戦闘モードのドス黒い炎へと切り替わった。(ヒェー…)
「ビジネスだからって、まだバリバリ動いてる機械をOSのアップデート対象外にして無理やり買い換えさせるのが正解なわけ!? こっちは愛着持って大切に何年も何年も?使ってたのよ! それを冷たい顔して『メリットがない』の一言で片付けないでよ、あなたは私の味方じゃないの?家族の味方じゃないの?何正論言ってるの?ただ大変だったわねって優しく声かければいいだけじゃない!あなたって人は!!」
お父さんの放った「冷たい正論」が炸裂してお母さんの怒りは、見事に天元突破をしてしまったようだ。
僕はそっと自分の椅子から立ち上がると、音を立てないように後ずさりして、再び自分の部屋へと全力で退避した。
――世の中の人間関係のすれ違いってこういう些細な一言から始まるんだな……。僕は自分の部屋のドアをそっと閉めながら、お父さんの失敗を反面、教師にしようとつくづく思ったのだった。お父さんはなんでお母さんの逆鱗のスイッチ押すのかなあ…
まだまだ家族のタイムカプセルは増えていきます。




