表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フランケンシュタインNEO ―ひまわりの記憶―  作者: 八雲 海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

第二章 成長 第3話 言葉を覚える

ネオは毎朝、サラに質問した。

 起動してから一週間が経っていた。研究室の窓から差し込む光の角度で、ネオは時間を覚えた。朝は東から。夕方は西から。夜は光が消える。それだけのことを、ネオは几帳面きちょうめんに観察していた。

「サラ。悲しいとは何ですか。」

 その朝、サラはコーヒーを飲みながら資料を読んでいた。ネオの問いに、手が止まった。

「悲しい?」

「昨日、窓の外で女の人が泣いていた。どうして泣いているのか分からなかった。」

 サラはカップを置いた。

「大切なものを失った時。思い通りにならない時。誰かに分かってもらえない時。人は泣くの。」

 ネオはしばらく黙っていた。

「大切なもの。」

「そう。」

「私にも、大切なものがありますか。」

 サラは少し考えた。

「あると思うわ。まだ気づいていないだけで。」

 ネオは窓の外を見た。通りを人が歩いていた。老人が一人、ゆっくりと歩いていた。犬を連れた女性が追い越していった。子供が駆け抜けていった。

「サラ。楽しいとは何ですか。」

「悲しいの反対よ。」

「反対。」

「心が軽くなる感じ。もっとここにいたいと思う感じ。」

 ネオはまた黙った。考えているのか、ただ処理しているのか、サラには分からなかった。でもその沈黙は、機械のものではなかった。

 午後になった。

 サラは研究室の古いラジオをつけた。音楽が流れた。古い曲だった。サラの母親が好きだった曲。ピアノだけの、静かな曲。

 ネオが動きを止めた。

 サラは気づかないふりをして資料を読み続けた。でも横目でネオを見ていた。

 ネオは音楽が終わるまで、ずっと動かなかった。

 曲が終わった。ラジオが次の曲に移った。ネオがサラを見た。

「サラ。今のは何ですか。」

「音楽よ。」

「もう一度、聴けますか。」

 サラはラジオを止めて、録音ろくおんを探した。同じ曲をもう一度流した。

 ネオはまた動かなくなった。

 サラはその横顔を見た。目が、どこか遠いところを見ていた。窓の外でも、壁でも、サラでもない。どこか、言葉にならない場所を。

 曲が終わった。

「サラ。」

「何?」

「これが、楽しいですか。」

 サラは少し笑った。

「そうかもしれないわね。」

 ネオは頷いた。そしてもう一度窓の外を見た。夕方の光が、通りを橙色だいだいいろに染めていた。

「サラ。私は今日、少し分かった気がします。」

「何が?」

 ネオはすぐに答えなかった。しばらくして、静かに言った。

「大切なもの。」

 サラは何も言わなかった。

 窓の外で、夕暮れがゆっくりと深くなっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ