第2話 ひまわりを知る
その日の午後、サラはネオを外に連れ出した。
研究室を出るのは初めてだった。ネオは歩きながら、目に入るものすべてに立ち止まった。電柱、看板、走り去る自動車、空を横切る鳥。その度に首を傾け、サラを見た。
「あれは何ですか。」
「電柱よ。」
「あれは。」
「車。人を運ぶもの。」
「あれは。」
「鳥よ。空を飛ぶ生き物。」
サラは笑いながら答え続けた。ネオの問いは尽きなかった。
街外れの空き地に出た時だった。
一面に広がる黄色が、ネオの足を止めた。
ひまわり畑だった。夏の光の中で、無数の花が同じ方向を向いて咲いていた。風が吹くたびに、一斉に揺れた。
ネオは動かなかった。
サラはネオの隣に立って、その顔を見た。ネオの目が、花畑をゆっくりと端から端まで追っていた。
「ネオ。」
返事がなかった。
「ネオ。」
もう一度呼ぶと、ネオはようやくサラを見た。
「あれは、何ですか。」
いつもと同じ問いだった。でも声が、少し違った。
「ひまわりよ。」
サラは畑の中に入り、一本の茎をそっと手で支えた。大きな花がネオの目の前に来た。黄色い花びら。黒い種。太陽に向かって開いた顔。
ネオは花に顔を近づけた。じっと見た。
「綺麗な花。」
サラは答えなかった。
ネオはもう一度言った。今度は誰かに伝えるのではなく、自分の中に収めるように。
「綺麗な花だ。」
風が吹いた。ひまわりが一斉に揺れた。ネオはその揺れをしばらく見ていた。
サラはネオの隣に立ったまま、空を見上げた。青い空だった。雲が一つ、ゆっくりと流れていた。
帰り道、ネオはずっと黙っていた。
研究室に戻る直前、ネオが口を開いた。
「サラ。」
「何?」
「また、あの花を見に行けますか。」
サラは少し驚いた。そして答えた。
「もちろんよ。」
ネオは頷いた。それだけだった。
でもサラには分かった。今日、何かが始まったと。




