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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第三章 デラクストーン国

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第66話 繋がる輪

 女性の瞳は、もうこちらを見ていなかった。


「……祈り……は……必要……です……」


同じ言葉を、ただ繰り返す。


先ほど一瞬だけ現れた“気配”は、もう消えていた。


セラフィナイトは静かに手を引く。


指先に残る、微かな温もり。


それを確かめるように見つめた。


「……セラフ」


低い声が響く。


ヴォルガドだった。


「時間がない」


その言葉に、セラフィナイトは小さく頷く。


「……はい」


モルディナも息を整えた。


「次へ行くわよ」


視線は扉へ向く。


目指すは”12”。


その番号へ辿り着くための、次の一手だ。


ヴォルガドが後ろへ回る。


「余が押す」


短い言葉。


それだけで十分だった。


モルディナが頷く。


「お願い」


セラフィナイトとモルディナが扉を背に立つ。


もう迷いはない。


ヴォルガドの手が肩に触れた。


「――行け」


押される。


空間が歪む。


視界が崩れる。


そして――消えた。



◆ ワープ後


静寂。


また別の部屋。


モルディナは真っ先に振り返った。


「ヴォルガド!」


だが、いない。


カトレアの時と同じだ。


押した側は来られない。


その事実を改めて理解する。


「……人数が減るわね」


小さく呟く。


セラフィナイトは何も言わず、扉を見つめていた。


「今は”8”ですわね……」


静かな声。


「このままだと、どちらか一人で行くことになります」


モルディナは肩をすくめる。


「一人になったら一か八かよ」


そして笑った。


「駄目だったら、また四人でやり直せばいいじゃない」


セラフィナイトも柔らかく微笑む。


「まぁ、モルディナさん」


少しだけ肩の力が抜けたようだった。


「そうですわね。勇気が湧いてまいりました」



こうして一度目の挑戦は失敗に終わった。


再び四人が合流する。


だが、状況は少しずつ見えてきている。


完全な無駄ではなかった。


「実質、あと二回かしら」


モルディナが腕を組む。


「三回目で”12”が出なかったら、同期すらできないわ」


セラフィナイトが静かに言った。


「もし最後で”12”が出ましたら……わたくし、一人でも入ってみますわ」


「そうね」


モルディナは頷く。


「セラフちゃんなら、何とかしそうな気がするわ」


「雑だけど、私もそんな気がする」


カトレアも同意した。


そして。


「じゃあ、また行くわよ」


二度目の挑戦が始まった。



何度目かのワープ。


静寂の中。


モルディナが小窓へ目を向ける。


そして――


「……あった」


思わず声が漏れる。


小窓の下。


そこに刻まれていた数字は。


「……“12”」


その瞬間。


張り詰めていた空気が、わずかに緩んだ。


「やっとね……!」


モルディナの顔に安堵が浮かぶ。


だが。


次の瞬間、その表情が変わった。


「……待って」


視線が扉へ向く。


「……赤い」


今までの扉とは違う。


黒ではない。


鈍く沈んだ、血のような赤。


まるで危険を告げる印のようだった。


「……何これ」


セラフィナイトも静かに見つめる。


モルディナは慎重に息を吐いた。


「警告かもしれないわね」


一拍。


「“ここが目的地だ。でも安全は保証しない”」


そんな意味かもしれない。


セラフィナイトは静かに頷いた。


「……承知しております」


迷いはない。


だが、油断もなかった。


モルディナがゆっくりと後ろへ回る。


「……いい?」


小さく確認する。


「何が出てきても不思議じゃないわよ」


セラフィナイトは前を向いたまま答えた。


「……はい」


そっと目を閉じる。


リゼル。


あの聖女。


そして、


『同じ』


と言い残した女性。


すべてを胸に刻み込む。


静かに目を開いた。


「……参りますわ」


モルディナが肩へ手を添える。


今度は迷いなく。


しっかりと。


「……行きなさい」


ぐっと押した。


身体が後ろへ流れる。


背中が赤い扉へ触れる。


空間が歪む。


視界が砕ける。


そして――消えた。


残されたモルディナは、その場から動かない。


赤い扉を見つめたまま、小さく呟く。


「……頼んだわよ」


静寂だけが返事をした。

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