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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第三章 デラクストーン国

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第61話 観測者

 ――ふっ。


 空気が揺れた。


「……みんな、そんなところで何をしているの?」


 声。


 背後ではない。

 前でもない。


 “中”から聞こえた。


 全員の動きが止まる。


 ゆっくりと視線を向ける。


 そこに――いた。


 リゼルのすぐ後ろ。

 何もなかったはずの空間に。


 オリエッタが、立っている。


「……っ!?」


 カトレアが息を呑む。


「なんで、あんたがそこにいるのよ……!」


 モルディナの目が細くなる。


「……中にいる?」


 理解が追いつかない。


 ヴォルガドだけが、静かに観察していた。


 オリエッタは、いつも通りだった。


 肩をすくめる。


「質問の仕方が違うわね」


 軽く笑う。


「“なぜそこにいるのか”じゃないでしょう?」


 一拍。


「“どうやって入ったのか”……よ」


 セラフィナイトが一歩前へ出る。


 結界の手前まで。


「オリエッタさん」


 静かに呼ぶ。


「あなたは……そこへ入る方法をご存知なのですね?」


 オリエッタは視線を向ける。


 一瞬だけ。

 セラフィナイトを見つめて。


「当然でしょう」


 あっさりと言った。


 カトレアがすぐに食ってかかる。


「だったら教えなさいよ! 今すぐ!」


 オリエッタは小さくため息をつく。


「嫌よ」


 即答だった。


「なっ……!?」


「私の任務は終わってるの」


 淡々と続ける。


「余計なことをする理由がないわ」


 冷たい。


 だが、合理的だった。


 モルディナが一歩前へ出る。


「でも、あんたは“ここにいる”」


「完全に無関係ってわけじゃないんでしょう?」


 オリエッタは少しだけ目を細めた。


「……観察よ」


 短く答える。


「この先、どうなるのか興味があるだけ」


 その言葉に。


 ヴォルガドが低く笑った。


「なるほどな」


「“干渉しない強者”ってわけか」


 オリエッタは否定しない。


 セラフィナイトが、もう一度問いかける。


「では……」


 やわらかく。


 だが、真っ直ぐに。


「ヒントだけでも、いただけませんか?」


 一瞬の沈黙。


 オリエッタは少しだけ考え――


「……一つだけ」


 指を一本立てた。


 そして。


 リゼルの足元へ視線を落とす。


「“そこ”からは、来てない」


 それだけ言う。


 カトレアが眉をひそめた。


「は? どういう意味よ」


 オリエッタは肩をすくめる。


「さあ?」


「考えなさい」


 そして最後に。


 セラフィナイトを見る。


「貴女なら、気づくでしょ?」


 その言葉を残して――


 消えた。


 音もなく。


 最初から存在していなかったかのように。


 沈黙が落ちる。


 数秒後。


 カトレアが爆発した。


「ヒント雑すぎでしょ!!」


 だが、モルディナは逆に静かだった。


「……いいヒントよ」


 ゆっくり呟く。


「“そこから来てない”……ね」


 セラフィナイトは、そっと目を閉じる。


 思考を沈める。


 空間。


 結界。


 ズレた座標。


 そして――リゼル。


 静かに、目を開いた。


「……わかりましたわ」


 その声に、全員が振り向く。


 セラフィナイトは、まっすぐ部屋を見つめる。


「この部屋――」


 一拍。


「入口が、ここではありません」


 全員が、息を呑んだ。

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