表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第三章 デラクストーン国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/72

第53話 旧区画

 通路は、進むほどに細くなっていった。


 石の質も変わっている。


 より黒く。

 より鈍く。


 まるで光そのものを吸い込むような、不気味な質感だった。


「……さっきと違うわね」


 カトレアが、小声で呟く。


「ええ」


 モルディナも壁へ触れながら頷いた。


「魔力の流れが……ほとんどない」


 一拍置き、


「まるで死んでるみたい」


 ヴォルガドが、低く口を開く。


「いや」


 短く否定する。


「抑え込まれている」


 その言葉に、空気がわずかに重くなった。


 セラフィナイトは、何も言わない。


 ただ、迷いなく先へ進む。


 確信だけを頼りに。


 やがて。


 通路の先で、視界がわずかに開けた。


 小さな空間。


 行き止まりにも見える場所だった。


「……ここ?」


 カトレアが眉をひそめる。


 だが、セラフィナイトは迷わなかった。


 静かに中央へ歩み寄り――


 そっと、床へ手を触れる。


 その瞬間。


 空気が震えた。


 ほんのわずかに。


「……今の、何?」


 モルディナの声が低くなる。


 セラフィナイトは、ゆっくり顔を上げた。


「ここに……あります」


 一拍。


「“奥”が」


 意味の分からない言葉。


 だが――


 ヴォルガドの目が、わずかに細くなる。


「……なるほど」


 視線を床へ落とす。


「隠し層か」


「え、そんなの分かるの?」


 カトレアが驚く。


「見えん」


 ヴォルガドは即答した。


「だが、ある」


 セラフィナイトが静かに頷く。


「はい」


 その肯定は、不思議なほど自然だった。


 モルディナが、小さく息を吐く。


「……ほんと、この子は」


 軽く指を鳴らす。


 魔力が空間へ広がる――が。


「……ダメね」


 すぐに引いた。


「干渉できない」


「完全に切り離されてる」


 ヴォルガドが、一歩前へ出る。


「ならば」


 拳を軽く握る。


 空気が圧縮される。


 だが。


「待って、ください」


 静かな声が、それを止めた。


 ヴォルガドが動きを止める。


「……壊してはいけませんわ」


 セラフィナイトの声は柔らかい。


 それでも、はっきりとしていた。


「ここは……そういう場所ではありませんの」


 カトレアが眉を寄せる。


「どういう意味?」


 セラフィナイトは少しだけ考え、


「……大切に、されていた場所です」


 そう答えた。


 沈黙が落ちる。


 その一言だけで、場の空気が変わった。


 モルディナが、ゆっくり頷く。


「……なら、壊すのは無しね」


 ヴォルガドも、静かに手を下ろした。


「では、どうする」


 セラフィナイトは、そっと目を閉じる。


 そして。


 いつものように。


「おはようございます」


 静かに、語りかけた。


 この場所へ。


 誰かへ。


 返事はない。


 だが――


 床の紋様が、淡く光った。


「……は?」


 カトレアが思わず声を漏らす。


 音もなく。震える。


「あれ?ちょっと待って。そこ、何か動きそうに見えるけど?」


 カトレアが指差す


 模様が光ったその真ん中。


「え、これは……動くのではなく、見えない階段?角度限定の!」


「すごいわねこれ、どうなってんのよ」


モルディナが不思議そうに、さまざまな角度からその様子を見る。


「この角度からだけね。しかも光らないとわからないわ」


「なるほど、普通に見てもわからん。セラフが挨拶で光らせた。それがトリガーとなったわけか」


ヴォルガドも感心している。


「では、参りましょう」


セラフが穏やかではあるが、やや緊張気味に促す。


角度を外せば、ただの床にしか見えない。

まるで“トリックステア”とでも呼ぶべき構造だった。


 暗い。


 けれど、どこか柔らかい空気が流れていた。


 モルディナが、小さく笑う。


「……なるほどね」


「鍵、いらなかったわけだ」


 ヴォルガドが低く呟く。


「“選ばれる”構造か」


 セラフィナイトは、何も言わない。


 ただ静かに、その階段を見つめていた。


 その先へ。


 確かに、繋がっている。


「……リゼルさん」


 小さく名前を呼ぶ。


 そして。


 セラフィナイトは、一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ