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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第三章 デラクストーン国

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第49話 遮る者

 黒い建物の前。


 四人は、通りの流れから少し外れた位置に立っていた。


 入口は、厳重に管理されている。


 兵士は二名。


 だが問題は、数ではない。


 出入りする者すべてが、明確に識別されていた。


 動き。


 所作。


 気配。


 どれか一つでも違えば、弾かれる。


「……無理ね」


 モルディナが、小さく言う。


 視線は動かさないまま。


「一人ならまだしも、四人同時は通らない」


「ええ」


 カトレアも同意する。


「幻術で誤魔化すにしても、綻びが出るわ」


 ほんの一瞬でも疑われれば終わり。


 ここは、そういう場所だった。


 セラフィナイトは、黙って建物を見つめている。


 その奥に、確かに“いる”。


 理由は説明できない。


 だが、確信だけがあった。


「……リゼルさん」


 小さく、名前が漏れる。


 その声を聞いて。


 ヴォルガドが、一歩前に出た。


「……ならば、別の方法だ」


 低く、はっきりとした声。


 三人が視線を向ける。


 その目には、迷いがなかった。


「余が騒ぎを起こす」


 一拍。


 カトレアが眉をひそめる。


「……は?」


「そのまま捕まる」


 淡々と続ける。


「内部に入った後、本来の姿に戻る」


 わずかに、空気が張り詰めた。


「檻を破壊し、内部から道を開く」


 言い切る。


 モルディナが、静かに目を細めた。


「……正気?」


「最も合理的だ」


 即答だった。


「外から侵入するより、内部から崩した方が早い」


 確かに。


 理屈としては通っている。


 だが――


「危険すぎるわ」


 モルディナが低く言う。


「中がどうなってるかも分からないのよ?」


「問題ない」


 短く返す。


 その声音には、確信しかない。


「余を拘束できるものなど、存在せん」


 静かな断言。


 誇張ではない。


 事実として言っている。


 カトレアが、ため息をついた。


「……言い切るわね」


「他に案があるなら言え」


 一切の揺らぎがない。


 沈黙が落ちる。


 誰も、すぐには返せなかった。


 モルディナが、わずかに視線を落とす。


 思考を巡らせる。


 だが――


「……ないわね」


 静かに認めた。


「時間をかければ別だけど、今すぐとなると……これしかない」


 カトレアも、小さく頷く。


「……癪だけど、同意よ」


 ヴォルガドは、それ以上何も言わない。


 すでに決まっている。


 そのとき。


「……ヴォルガドさん」


 セラフィナイトが呼ぶ。


 その声に、ヴォルガドが振り返った。


「本当に……大丈夫ですの?何か嫌な予感がしますの……」


 まっすぐな問い。


 ヴォルガドは、一瞬だけセラフィナイトを見る。


 そして。


「いいか」


 低く、はっきりと告げた。


「これは消去法だ」


 一歩、近づく。


「これしか無理だ」


 断言だった。


 いつもの余裕ではない。


 迷いを切り捨てた、“選択”としての言葉。


 セラフィナイトは、その目を見返す。


 少しだけ息を吸って。


「……わかりましたわ。お願いします。」


 静かに頷いた。


 ヴォルガドも、わずかに頷き返す。


「少し騒ぎを起こす」


 視線を入口へ戻す。


「その隙に入れ」


「了解」


 モルディナが短く答える。


 カトレアも、構えを整えた。


 黒い建物を前に。


 ヴォルガドが、ゆっくり一歩踏み出す。


 空気が沈む。


 抑えていた圧が、解けかける。


 その瞬間――


「待て」


 低い声が、横から差し込んだ。


 同時に、腕を掴まれる。


 反射的に振り払おうとして――止まる。


(……気配がない)


 視線だけを動かす。


 そこに、男がいた。


 存在を削り落としたような気配。


 気づくのが遅れるほどに。


「お前、何する気だ」


 短い問い。


 間髪入れず、


「ちょっと、こっち」


 女が反対側から腕を引く。


「ここでやる気? 死ぬわよ」


 有無を言わせず、影へ引き込む。


 数歩。


 それだけで、外界と切り離された。


 空気が閉じる。


「……何者だ」


 ヴォルガドが低く問う。


 男が、わずかに笑う。


「そっちこそだろ」


 一拍。


「だが、目的は同じっぽいな」


 女が続ける。


「中、入りたいんでしょ?」


「……まあな」


「やめなさい」


 即答だった。


 遠くで見ていたモルディナが、肩をすくめる。


「あの二人、何者かしら」


 カトレアも眉をひそめる。


「……そうね」


 セラフィナイトも、困惑した表情のまま小さく頷く。


「敵のようには見えませんわね。」



 三人は、見つからないよう距離を詰めた。


 女は、建物を顎で示す。


「あそこ、正面から入る場所じゃない」


「入れるかどうかじゃない。“帰ってこれない”の」


 沈黙。


 男が口を開く。


「今、中はぐちゃぐちゃだ」


「リーダーが捕まった」


 空気が変わる。


「側近もだ」


 女が続ける。


「誰がどこにいるかも分からない」


「指示系統、崩壊……」


 カトレアが低く呟く。


「……反乱軍」


「そうよ」


 否定はない。


 男が、静かに言う。


「あそこには、仲間がいる」


「だが、動けばどうなるかも分からない」


 女の視線が鋭くなる。


「そんな状態で、何も策もなく暴れられたら困るのよ」


「巻き込まれるのはこっち」


 ヴォルガドを射抜く。


「わかる?」


 一拍。


 ヴォルガドは黙っている。


 思考は、すでに巡っていた。


 そのとき。


 男が、ふと視線を外したまま言う。


「……昔もあったらしい」


 落ち着いた低い声。


「昔話?」


 モルディナが怪訝そうに男を見る。


「何かしら」


4人はそっと男に顔を向けた。

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