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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第三章 デラクストーン国

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第50話 許されざる所業

男が、ゆっくりと口を開いた。


「騒ぎが起きた時の話だ」


 隣で、女が小さく息を吐く。


「この国には、“許されてること”がある」


 カトレアが、わずかに眉を動かした。


「許されてる……?」


 男が続ける。


「囚人の、皆殺しだ」


 空気が凍った。


 誰も、すぐには言葉を返せない。


「騒ぎが起きると、中は制御不能になる」


 女の声は淡々としている。


「だから外から封鎖する」


「扉は全部閉じる」


「鍵をかける」


 一拍。


「そのまま――毒を流す」


 静寂。


 モルディナの目が、わずかに細くなる。


「……毒ガス」


「そう」


 男が頷く。


「過去に一度、実際にあったらしい」


 短い沈黙。


「中にいた奴らは、全滅だ」


 あまりにも軽く語られた事実。


 だが、その重さは全員に届いていた。


 セラフィナイトの指先が、わずかに震える。


「……そんな……」


 小さな声。


 女が静かに言う。


「だから言ってるの」


「騒ぎは、最悪の選択肢」


 ヴォルガドは、ゆっくりと息を吐いた。


 視線を、黒い建物へ向ける。


(騒ぎ=全滅の引き金)


(内部構造不明)


(対象位置不明)


 そして。


(……リゼルも巻き込まれる)


 セラフィナイトが、はっきりと言う。


「それは、絶対に避けなければなりませんわ」


 その声は震えていなかった。


 そこにあったのは、強い意志だけだった。


 モルディナが静かに頷く。


「ええ」


 カトレアも短く続ける。


「同感」


 ヴォルガドは、しばらく黙っていた。


 やがて。


「……なるほどな。だから監視は二人か」


「少ないはずね」


 カトレアが呟く。


 最初の案は、そこで切り捨てられた。


 迷いではない。


 “不要と判断した”だけ。


「ならば、別の手を使う」


 ヴォルガドが、男と女を見る。


「話せ」


 短い要求。


 女が、わずかに目を細めた。


「……飲み込み早いわね」


 一拍。


 小さく息を吐く。


「地下搬入路よ」


「囚人を運ぶルートだ」


 男が続ける。


「建物の裏じゃない」


「少し離れた倉庫区画にある」


 モルディナが、わずかに視線を動かす。


「偽装されてるのね」


「ええ」


 女が頷く。


「古い昇降施設に見せかけてる」


「資材搬入口ってことになってるけど……実際は違う」


 そして一拍。


「地下収容区へ直結する搬送路」


 カトレアが、小さく息を吐く。


「なるほど。表から切り離してるわけね」


「見せたくないものだからな」


 男が低く言う。


「囚人も、死体も、全部そこを通る」


 空気が、わずかに重くなる。


 セラフィナイトの表情も静かに沈んだ。


 女が続ける。


「昇降機は鉄格子式」


「搬入時だけ結界が一瞬緩む」


「その瞬間なら、潜り込める可能性がある」


「完全じゃないけど、正面よりはマシ」


 ヴォルガドが低く問う。


「監視は?」


「少ない」


 男が即答する。


「だが、その代わり閉じたら終わりだ」


「下に落ちた時点で、もう逃げ道はほぼない」


 モルディナが、ふっと笑った。


「なるほどね」


 カトレアも頷く。


「そこを使うしかないってわけね」


 女が最後に言う。


「ただし」


 一拍。


「タイミングを間違えたら終わり」


 ヴォルガドは、静かに頷いた。


「いいだろう」


 短い同意。


 完全な信頼ではない。


 だが。


 目的のための、共闘だった。


 黒い建物を前に。


「……リゼルさん」


 そう漏らしたセラフィナイトに、女がふと視線を細める。


「……あなた」


 セラフィナイトを見る。


「ここ、来たことある?」


 唐突な問いだった。


 セラフィナイトは、少しだけ首を傾げる。


「いえ」


 やわらかく微笑む。


「わたくし、ここは初めてなんです」


 一拍。


「セラフィナイトと申します」


 静かな自己紹介。


 その瞬間。


「……は?」


 男が、思わず声を漏らした。


 女も目を見開く。


「今、なんて……?」


 セラフィナイトは、不思議そうにもう一度言う。


「セラフィナイトですわ」


 短い沈黙。


 男と女が、顔を見合わせる。


「……おい」


 男が小声で言った。


「聞いたことあるぞ、その名前」


 女が、わずかに頷く。


「ええ……」


 視線を、セラフィナイトへ戻す。


「あの“セラフ様”と同じ名前……」


 空気が、わずかに変わった。


 カトレアが眉をひそめる。


「……何それ」


 モルディナは何も言わない。


 ただ静かに、様子を見ていた。


 セラフィナイトは――


「……?」


 本当に、分かっていない顔だった。


「どなたかと、お間違えではありませんか?」


 その言葉に。


 女は、ほんの一瞬だけ息を止める。


 そして、小さく首を振った。


「……いいえ」


「ただの偶然よ」


 そう言いながらも。


 視線は、完全には逸らせていなかった。


「じゃあ、行こうか」


 それぞれの思惑が。


 静かに、交差していく。

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