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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第三章 デラクストーン国

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第45話 閉じられた中で

 結界の内側へ踏み込んで、まだそれほど時間は経っていない。


 だが、四人の足取りはすでに慎重になっていた。


 空気は重く、どこかまとわりつくようで。

 音が少ない分、わずかな気配が妙に際立つ。


 そのときだった。


「――待て! 止まれ!」


 鋭い怒声が、静寂を裂いた。


 全員の視線が、一斉にその方向へ向く。


「見逃してくだされ! 見逃してくだされ!」


 続くのは、かすれた声。


 必死に縋るような、老人の声だった。


 四人は反射的に身を低くする。


 すぐ近くにあった大きな岩陰へ、素早く身を滑り込ませた。


 息を潜める。

 気配を落とす。


 そのまま、そっと様子を窺う。


 岩の向こう側。

 開けた場所で――


 一人の老人が、数人の兵士に囲まれていた。


 腕を掴まれ、無理やり引きずられている。


 足はもつれ、何度も地面に膝を打つ。


「ならん」


 兵士の一人が、冷たく言い放つ。


「お前を逃亡犯として拘束する」


 感情のない声だった。

 ただの手順のように。


「やれ」


 短い命令。


 老人の身体が、さらに強く引かれる。


「……っ、頼む……!」


 声は途中で途切れた。


 抗う力は、もうほとんど残っていない。


 そのまま、引きずられるようにして連れていかれる。


 足跡だけが、地面に残る。


 やがて。


 音が遠ざかり、再び静けさが戻った。


 だが、それは先ほどとは違う種類の静寂だった。


 何かを見てしまった後の、重い沈黙。


「……待って、みんな。止まって」


 小さく、しかしはっきりと。


 カトレアが声を落とす。


 すぐに動こうとしていた空気を、制するように。


 三人が、その場で静止する。


「……今の、見た?」


 振り返らずに言う。


「ああ」


 ヴォルガドが短く返す。


 モルディナも、わずかに目を細める。


「そうね……逃げようとしていたわね」


 視線は、兵士たちが消えた方向へ向けられている。


「結界の外へ」


 一拍。


「でも……知らなかったみたいね」


 その声には、わずかな違和感が混じっていた。


「ここから出られないってこと」


 カトレアが、小さく息を吐く。


「……普通、気づくでしょ」


「普通ならね」


 モルディナが肩をすくめる。


「でも“普通じゃない状態”に置かれてるなら、話は別よ」


 ヴォルガドが、低く呟く。


「だろうな」


 視線は冷静なまま。


「表向きは“守護の結界”」


 一拍。


「だが実態は、隔離だ」


 断定に近い口調。


 そのとき。


 カサカサ……と。


 すぐ近くで、小さな音がした。


 全員の視線が、同時にそちらへ向く。


 木の葉が、不自然に揺れる。


「何!何かいるわ!」


 カトレアが小さい声を発する


 風はない。内側から押し上げられるように。


 それはゆっくりと。


 地面の葉が持ち上がり――


 その中から、一人の少女が姿を現した。


「え!子ども?なの」


 モルディナが驚いたように呟いた。


 その少女は痩せていた。


 衣服は薄汚れ、ところどころ擦り切れている。

 顔色は悪く、唇も乾いている。


 彼女は力なく、その場に崩れるように座り込んだ。


 そして。


「……おじいちゃん……」


 小さく、呟いた。


 先ほど連れていかれた老人の方角を見たまま。


 声には、力がない。


 泣くことすらできないほど、擦り減っている。


 その光景を見て。


 カトレアが、わずかに歯を食いしばる。


 モルディナも、無言で目を細める。


 ヴォルガドは何も言わない。


 だが、その視線は冷たく沈んでいた。


 その中で。


 ただ一人。


 セラフィナイトだけが、静かに前へ出た。


「……おい」


 カトレアが、低く呼び止める。


 だが、セラフィナイトは止まらない。


 ゆっくりと。


 警戒を煽らない歩幅で。


 少女との距離を、少しずつ詰めていく。


 足音はほとんどない。


 ただ、近づいてくる気配だけが伝わる。


 少女が、かすかに顔を上げる。


 視線が合う。


 怯え――ではない。


 ただ、虚ろな目。


 その前で。


 セラフィナイトは、やわらかく微笑んだ。


「おはようございます」


 その言葉は、この場所には似つかわしくないほど穏やかで。


 静かに、空気へと溶けていった。


 少女は少し警戒し、身体はビクッとなる。セラフを見てその目は僅かに揺れた。


 理解できないものを見るように。


 けれど――


 ほんの少しだけ。


 その瞳に、“生きている反応”が戻る。

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