表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第ニ章 招かれざる影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/50

第43話 重なる手、繋がる先

 丘の上。

 セラフィナイトは、変わらず祈りを続けていた。


 朝の光の中、その姿だけが静かに切り取られている。風が頬を撫でても揺らがない。意識はただ遠くへ――見えないどこかへと向けられている。


 その背後に、ゆっくりと影が重なった。


 ヴォルガドだった。足音はほとんどない。気配だけが、すっと近づく。そして何も言わず、そっとその肩に手を置いた。


 大きく、厚い手。


 触れた瞬間、わずかに力が抜かれる。押さえつけるのではなく、“支える”ように。


「……震えているな」


 低く、静かな声。責める響きはない。ただ事実を置くだけの言葉。


 セラフィナイトは目を閉じたまま、小さく息を吸う。否定もしないし、隠そうともしない。


「……はい」


 その声に合わせるように、ヴォルガドの魔力が静かに流れ込んだ。荒れることもなく、押し付けるでもなく、ただ深く沈み込むように広がっていく。


「だが」


 一拍。肩に置かれた手に、わずかに重みが増す。


「余に任せよ。準備ができているなら、申せ」


 その言葉に、セラフィナイトの呼吸が少しだけ整う。背中から伝わる温もりが、冷えていた感覚をゆっくりと戻していく。


「……はい、ヴォルガドさん」


 声が、ほんの少し柔らぐ。


「その大きな優しい手の温もり……何だか、安心しますわ」


 わずかに、微笑む気配。


 その瞬間だった。


 ヴォルガドの意識に、“何か”が流れ込む。


 映像ではない。記憶でもない。ただの断片。切り取られた“場所の感覚”。


 暗い石。閉じた空気。遠くで響く、鈍い音。


 そして――微かに残る、リゼルの気配。


「……なるほど」


 ヴォルガドの口元が、わずかに歪む。


「面白い」


「え、それで分かるの?」


 モルディナが思わず口を挟む。半信半疑というより、純粋な興味の色だった。


 ヴォルガドは振り返らない。


「潜在意識の中を、少しばかり掘り出しただけだ」


 それ以上は語らない。だが、それで十分だった。


 再び前を向く。


「おおよその位置は特定した」


 一歩、わずかに足をずらす。


「だが――結界の内部へ直接転移するには、座標が足りん」


 空間を測るように、視線が細められる。


「近隣へ飛ぶ」


 結論は簡潔だった。


 セラフィナイトは、ゆっくりと目を開く。そこにもう迷いはない。


「準備は整いましたわ」


 静かに告げる。


「ノエルさんにも、お伝えしてあります」


 一瞬だけ町の方へ視線を向け、すぐに戻す。


「……お願いします」


 その一言に、揺らぎはない。


 ヴォルガドは小さく頷いた。


「モルディナ、カトレア」


 短く呼ぶ。


「余の背に触れよ」


「ええ、わかったわ」


 モルディナが即座に応じ、カトレアも無言で近づく。二人同時に、ヴォルガドの背へ手を置いた。


 その瞬間、空気がわずかに歪む。


 一呼吸。ほんの短い静止。


 次の瞬間――足元に魔法陣が浮かび上がった。


 黒とも紫ともつかない光。禍々しさを帯びながらも、完全に制御された形。幾何学的な紋様が静かに回転し始める。


 風が止まる。音が消える。


 世界が、一瞬だけ切り離される。


 その中心で、セラフィナイトは再び目を閉じた。


 祈りは、まだ続いている。


 そして――


 光が、四人を包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ