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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第ニ章 招かれざる影

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第42話 覚悟の夜

「……あちらですわ」


セラフィナイトの指先は、迷いなく一点を示していた。


町の外。さらにその先。何も見えないはずの方向。


だが、その声音には一切の揺らぎがない。


モルディナは、その横顔をじっと見つめていた。

冗談でも、勘でもない。確信している顔だった。


(……本当に、行く気ね)


小さく息を吐く。


本来なら、ここで止めるべきだ。

この子を、危険に近づける理由はない。守る側に回すべき存在だ。


――それなのに。


「行きます」


セラフィナイトが、静かに言った。


振り返る。その目は、まっすぐだった。


「私も」


短い言葉。だが、そこに迷いはない。


カトレアが思わず口を開く。


「ちょっと待ちなさい、セラフ。あなたは――」


止めようとする。当然の反応だった。

だが、その言葉は途中で止まる。


セラフィナイトの表情を見たからだ。


やわらかな笑顔の奥に、確かな“決意”がある。

逃げるでも、委ねるでもない。自分で選んで立っている顔。


「……」


カトレアは、言葉を失った。


ヴォルガドは腕を組んだまま、ただ静かに見ている。

その瞳は、わずかに細められていた。


測るように。

だが同時に――認めるように。


そして。


「……そう」


モルディナが、小さく呟いた。


視線をわずかに外し、空を仰ぐ。

朝の光はすでに広がりきり、影を薄くしていた。


「止めても、無駄ね」


どこか諦めたように言いながら。

その口元は、ほんのわずかに笑っている。


セラフィナイトへ向き直る。


「いいわ」


はっきりと言った。


「行きましょう」


その一言で、空気が決まる。


「モルディナ!?」


カトレアが思わず声を上げる。


「ただし」


すぐに続ける。


一歩、セラフィナイトへ近づく。距離は半歩。

視線を合わせる。


その瞳は、今までになく真剣だった。


「これだけは、覚えておいて」


声が、わずかに低くなる。


「何があっても」


一拍。

言葉を選ぶように、ゆっくりと。


「私は、貴女を諦めない」


断言だった。


軽さは一切ない。

それは約束というより――誓いに近い。


守るための言葉であり、同時に。

“連れて帰る”という、強い意思でもあった。


セラフィナイトは、一瞬だけ目を瞬かせる。


その意味を、静かに受け取る。


そして――


やわらかく、微笑んだ。


「……はい」


短い返事。

それだけで、すべてが通じた。


モルディナは、小さく息を吐く。


「まったく……」


肩の力を抜きながら、苦笑する。


「厄介な子を気に入っちゃったものね」


誰に言うでもなく呟き、くるりと背を向ける。


「さぁ」


声は、いつもの調子に戻っていた。


「みんなで行くわよ」


軽く手を振る。

だが、その足取りには一切の迷いがない。


ヴォルガドが、ゆっくりと歩き出す。


「久しいな……こういうのは」


低く呟くその声には、わずかな高揚が混じっていた。

戦いではない。だが、“向かうべき場所がある”感覚。


それを、楽しんでいるようにも見える。


カトレアは大きく息を吐き、肩をすくめる。


「……もう、好きにしなさい」


半ば呆れたように言いながらも、足は止まらない。


その表情は、すでに覚悟を決めていた。


(どうせ止められないなら――最後まで付き合うしかないわね)


心の中でそう結論づける。


そして。


セラフィナイトは、もう一度だけ遠くを見つめた。


見えないはずの先。

それでも、確かに感じる。


かすかに繋がる“誰か”の気配。


細く、途切れそうで。

それでも消えない、確かな存在。


(……待っていてください)


胸の奥で、静かに願う。


今度は、祈りではない。

“向かう”という選択そのものが、答えだった。


やがて四人は、町の境界を越える。


朝の光の中を進みながら、影はゆっくりと長く伸びていく。


――その先に待つものが、何であれ。


彼らは、もう引き返さない。

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