第27話 リゼルとそこにいた理由
デラクストーン国は、六つの聖柱によって守られている。
六人の聖女。
その祈りによって支えられる結界は、国土全体を覆い――
魔物を退け、災厄を遠ざけ、
人々の穏やかな暮らしを、静かに守り続けてきた。
だが。
五年前。
その柱の一つが、突然消えた。
聖女――
セラフィナイト・ゴールドステイン。
彼女は、ある日忽然と姿を消した。
痕跡は、何一つ残されなかった。
残された五人の聖女によって、結界は辛うじて維持されている。
だが、その均衡は確実に崩れつつあった。
一柱でも欠ければ、いずれ結界は綻びる。
そしてその時、国は――
悪意に呑まれる。
だからこそ。
王国と聖教会は、ひとつの決断を下した。
――探せ。
失われた聖女を。
そして、その任を託されたのが。
かつて彼女の側に仕えていた侍女。
リゼルだった。
理由は、ただ一つ。
誰よりも――
彼女が、セラフィナイトを知っていたから。
五年。
短いとは言えない歳月だった。
リゼルは各地を巡った。
聖堂。修道院。
噂のある町。奇跡が起きたと囁かれる村。
だが、手掛かりはどれも曖昧だった。
奇跡はどこにでもある。
だが、“あの人の奇跡”は、少しだけ違う。
それを、リゼルだけは知っていた。
そして――ある日。
ひとつの報告が、彼女の足を止める。
小さな町。
そこで、不思議な出来事が続いているという。
冬に、花が咲く。
病人が減る。
魔物が、寄りつかない。
どれも些細な奇跡。
だが。
リゼルの胸は、確かにざわめいた。
「……まさか」
半信半疑のまま。
それでも、確信に近い何かに導かれるように。
彼女は、その町へと向かった。
だが。
そこに、誤算があった。
度重なる転移。
長距離の移動。
焦燥に駆られた無理な術式。
気づけば、魔力はほとんど底をついていた。
それでも。
止まるわけにはいかなかった。
あと一歩で、届くかもしれない。
そう思ってしまったから。
そして――
最後の力を振り絞り、転移を試みる。
だが。
辿り着いた先は――
真っ暗な、洞窟の中だった。
静寂。
湿った空気。
そして。
すぐに気づく。
「……出られない」
出口を探す。
だが――
見えない壁。
触れた瞬間、弾かれる。
内側からは、決して破れない結界。
戻ろうとしても、魔力が足りない。
もう一度転移する力も、残っていない。
理解する。
――閉じ込められた。
膝から、力が抜ける。
「……そんな」
ここまで来て。
あと少しだったのに。
体力も、魔力も、限界。
意識が、ゆっくりと遠のいていく。
このまま。
誰にも見つからず。
静かに眠るしかないのか――
そう思った、その時。
かすかに。
結界の向こうから、声がした。
――あの時の声が。
今も耳から離れない、あのセラフ様の澄んだ声が。
「おはようございます」




