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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第一章 太陽の少女

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第20話 訪問者と、やさしい遠慮

 やわらかな日差しが、静かな住宅街を包んでいる。


「このあたりですわ」


 セラフィナイトが足を止めた。


 視線の先には、小さく落ち着いた家。

 白い壁に、控えめな窓。


 どこか――ノエルらしい、静かな佇まい。


「……いい家ね」


 カトレアが小さく呟く。


 モルディナも、くすりと笑った。


「ほんと。あの子そのままって感じ」


 ヴォルガドは、何も言わずに家を見ている。


 セラフィナイトは、そっと扉の前に立ち――

 一度だけ、振り返った。


「……あの」


 やわらかく微笑む。


「わたくしたち、このまま中に入るのは遠慮しておきますね」


 小さくスカートの裾をつまむ。


「外を歩いてきたままですし……」


「汚れたままでお邪魔するのは、大変失礼ですもの」


 一拍。


 モルディナが肩をすくめる。


「まあ、確かにね」


 カトレアも頷いた。


「配慮としては正しいわ」


 ヴォルガドも、静かに言う。


「……ああ、もちろんだ」


 そうして。


 こんこん、と扉を叩く。


「ノエルさん? セラフィナイトですわ」


 やさしい声。


 少しして――


 がちゃり、と扉が開いた。


「……あ」


 ノエルが、そこに立っていた。


 少しだけ頬が赤い。

 どこか、ぼんやりとした目。


「お加減はいかがですか?」


 セラフィナイトが、そっと声をかける。


「だ、大丈夫です……」


 小さく答える。


 けれど――

 どこか、頼りない。


 セラフィナイトは、やさしく微笑んだ。


「無理はなさらないでくださいね」


 そして、少しだけ視線を下げる。


「本日は、プリントをお届けに参りましたの。それと、美味しいパンですわ」


「……あ……ありがとうございます」


 その芳しい香りに包まれた矢先、

 受け取ろうとして――


 ノエルは、少しだけ躊躇う。


 視線が、揺れる。


 セラフィナイトの後ろ。


 モルディナ。

 カトレア。

 そして――


 少しかしこまったヴォルガド。


「……あの」


 小さな声。


 勇気を出すように。


「よろしければ……中へ……」


 一瞬の沈黙。


 セラフィナイトが、やわらかく首を振る。


「いいえ」


「本日は、ここまでで大丈夫ですわ」


 ノエルの指が、少しだけ強く握られる。


「……でも」


 消えそうな声。


「せっかく……来てくださったので、ぜひ……」


 一拍。


 風が、静かに通り抜ける。


 セラフィナイトは、少しだけ考えて。


 そして――


 ふわりと微笑んだ。


「……では」


「少しだけ、お邪魔してもよろしいかしら?」


 ノエルの表情が、ぱっと明るくなる。


「……はい」


 部屋の中。


 静かで、整えられた空間。

 淡い色のカーテンが、やさしく揺れている。


「まぁ……」


 セラフィナイトが、嬉しそうに息をつく。


「とても素敵なお部屋ですわ」


 モルディナが、くすっと笑う。


「ほんとね。性格そのままって感じ」


 カトレアも頷く。


「落ち着くわ」


 ノエルは、ベッドに腰を下ろす。


 少しだけ距離を取るように。


 でも――

 視線は、つい。


 ヴォルガドの方へ。


「……」


 目が合う。


 一瞬だけ。


 そのとき。


 ヴォルガドが、静かに口を開いた。


「……すまない」


 部屋の空気が、わずかに止まる。


「昨日の茶葉だ」


 短く言う。


「刺激が強すぎたかもしれん」


 ノエルが、はっとする。


「ち、違います……!」


 思わず声が出る。


「わたしは……その……」


 言葉が続かない。

 顔が、さらに赤くなる。


 ヴォルガドは、静かに首を振る。


「いや」


「不注意だった」


 一拍。


「次は、もっとやさしい茶葉を用意しておく」


 その言葉に。


 ノエルの胸が、きゅっと締まる。


 セラフィナイトが、ぱっと顔を明るくした。


「まぁ!」


「それは、ぜひノエルさんに召し上がっていただきたいですわ」


 やわらかく手を差し出す。


「ですから――」


「今は、ゆっくりお休みくださいませ」


 モルディナが、くすっと笑う。


「そうね。さすがに顔赤すぎ」


 カトレアも淡々と続ける。


「かなり熱があるわ」


 セラフィナイトが、こくりと頷く。


「ええ」


「長居はご迷惑になってしまいますものね」


 ノエルは、小さく頷いた。


「……すみません……」


「いいえ」


 セラフィナイトが、やさしく微笑む。


「また、お元気な時にお会いしましょう」


 その言葉に。


 ノエルの表情が、少しだけやわらぐ。


「……はい」


 こうして。


 四人は、静かに部屋を後にした。


 扉が閉まる。


 部屋の中。


 静けさが戻る。


 ノエルは、ゆっくりとベッドに横になった。


 胸に、手を当てる。


(……やさしい)


 思い出すのは。


 あの言葉。


「次は、やさしい茶葉を用意しておく」


「……っ」


 顔が、また熱くなる。


(……やっぱり)


(これ……)


 小さく、目を閉じる。


(風邪じゃない……)


 カーテンが、ふわりと揺れた。

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