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【完結】「君を愛してる」と脅されても、もうすぐエンディングなので全力で応援します! ~悪役令嬢ですが、ヒロインと婚約者様が結ばれるのを待ってるんですが?~  作者: ましろゆきな
第二部:聖女と騎士の恋騒動編

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第二十一話: 夜の秘密と無自覚な誘惑

 夜、公爵邸離れの薄暗い廊下。


「喉乾いちゃった……」


 水を飲もうと一人歩いていたアリスが、角を曲がってきた人影に気づかず衝突する。


 ドンッ――!


「きゃっ!?」


 アリスの鼻先が、彼の胸に当たる。  ふわりと香る、お風呂上がりの石鹸の匂いと、少しの男の匂い。


「……おや。危ないですよ、アリス様」


 倒れないように、男がアリスの腰を支える。  アリスは慌ててパッと顔を離すが……。


「す、すみませ……っ!」


 顔を離したものの目の前にあるのは、  はだけたシャツの隙間から見える、引き締まった胸筋の谷間。  ちょうどアリスの目の高さにあるため、嫌でも視界に入ってきた。


(……ち、ちか……っ!  え、すご……硬そう……じゃなくて! 目の前が肌色なんですけど!?)


 アリスの視線が自分の胸元に釘付けになっているのを見て、頭上からくすりと笑う気配がした。


「……どうしました?  ぶつかった拍子に、僕の胸で休憩ですか?」


「ち、違います!!  身長のせいで、そこしか見えないんです!!」


「ほう。『見たくないけど、仕方なく見てしまった』?」


 長身の男は少し屈んでアリスの顔を覗き込んだ。


「え?……く、クラウスッ!?」


「なんですか、いきなり大きな声を出して。  ……ああ、この髪ですか?  セットしていないと、誰だかわかりませんでしたか?」


 クラウスは目を丸くするアリスを一瞥すると、前髪を邪魔そうにかき上げた。  その仕草で男らしい太い首筋と長い指先があまりにも色っぽすぎて、アリスは目を逸らせないまま顔を沸騰させる。


「わ、わかりましたけど……!  なんか……雰囲気が……違いすぎて……」


 昼間、銀縁眼鏡を掛け、髪を綺麗に整え、騎士団の制服をきっちり着こなしている姿から、メガネも掛けておらず、髪も下ろしたまま、今のラフな私服は想像できなかった。


「そうですか? 中身は同じですよ。  ……夜の方が、少しだけ『我慢強くない』だけです」


 口の端だけに笑みを浮かべ、クラウスは軽く肩を竦める。 そして、真っ赤になり目を泳がせるアリスの姿を頭から足の先まで改めて眺めた。


 アリスは上着も着ず、薄手のネグリジェだけで立っている。月明かりで体のラインがうっすらと浮かび上がっていた。


(……なかなかによい眺めですが、あまりに警戒心がなさすぎる。直接、教えてあげた方が親切なんでしょうが……恥じらって隠されてしまうのも、勿体ないですかね)


 言葉に出さないまま、視線だけで品定めする。


(……しかも、なんて細い)


 そして、手のひらに伝わる、あまりに頼りない感触。  普段のドレス姿では分からなかったが、中身はこんなにも華奢なのか。


(こんな体で、よくあんなに暴れ回れるものだ。  ……それに、柔らかい。  コルセットがないと、こんなに……)


 無意識に、親指で腰のくびれをすぞ、となぞる。


「……ひゃぅっ!?  く、クラウス……!? くすぐったいです……!」


「……おや、失礼。  あまりに頼りない腰をしているので、つい支える手に力が入ってしまいました」


 嘘ではない。  だが、その「力」の意味が、昼間の自分が口にするそれとは少し違うだけだ。


 あまりの恥ずかしさに、アリスは「もうっ!」とプイッと顔を背ける。  その拍子に、さらさらと髪が流れ、無防備なうなじが露わになる。


「……っ、見ないでくださいったら……!」


 顔を背けても、耳まで真っ赤になっているのが分かる。  そして、月明かりの下、白磁のような首筋が、熱で上気して甘い色を帯びている。


 クラウスの視線が、アリスの顔から、その「うなじ」へと吸い寄せられる。


(……無防備すぎる。  逃げているつもりなんでしょうが……急所を晒しているだけですよ)


 そこにあるのは、細くて、柔らかくて、脈打つ血管が透けて見えそうな皮膚。


(……きっと、甘い味がするんでしょうね)


 クラウスの手が、アリスの腰から背中へ、そして首筋へとゆっくり這い上がる。


「……アリス様。  そんなに赤くなって……ここ(うなじ)まで、熟した果実の色になっていますよ?」


 親指で、うなじのくぼみをじわりと押す。


「ひゃぅっ!?  く、クラウス……!? な、何を……!?」


「いえ。あまりに無防備だったので。  ……つい、赤い果実に虫がついていないか、確認してしまいました」


「な、何、言ってるんですか……!?」


 さすがにいじめすぎたか。


 クラウスは、くすりと笑うと優雅な動作で自分の腰に巻いていたストールを外し、アリスの肩にふわりと掛ける。


「え……?」


「アリス様、そんな薄着では、寒いでしょう?」


「ちょっとだけ……お水飲みたくて……」


「水なんて冷たいものでは、目が覚めてしまいます。  ……おいでなさい。僕の部屋へ。  ホットミルクと、東通りのパティスリーの新作クッキーがありますよ」


「えっ! 本当ですか!? 行きます!」


「それでは、行きましょうか」


 今までとは打って変わって、キラキラした瞳でクラウスを見るアリスにクラウスはやれやれと肩をすくめた。


(リリア様の情報のおかげだが、(ひと)を簡単に信じすぎだな)


 ◇◇◇


 クラウスの私室で、ホットミルクを飲むアリス。  クラウスは向かいに座り、その姿を眺めた。


「……アリス様。約束してください。  明日から、夜に目が覚めたら、真っ先に僕のところへ来なさい」


「え? でも、迷惑じゃ……」


「迷惑なものですか。  僕はこれくらいの時間は起きていますし……何より、貴女が寒空の下を彷徨う方が心配です。  ここなら、温かいし、甘いものもあるし、寂しくないでしょう?」


「クラウス……っ!」


(なんて優しい……! 昼間は小言ばかり言うけど、本当にいい人!)


「はい! わかりました! 毎晩来ますね!」


「ええ。お待ちしていますよ。遠慮なく、どうぞ」


 満面の笑みを浮かべるアリスにクラウスは苦笑する。


(まったく簡単に他人を信じすぎじゃないか? まあ、他の奴に懐柔される前に手を打つことが出来てよかったんだろうな)


 厄介でしかなかった聖女のお守りがそうでなくなった瞬間だった。


 ◇◇◇


 クラウスの部屋で温かいミルクを飲んでいたアリスだったが、安心感と暖かさ、そして日中の疲れで、強烈な睡魔に襲われる。


「……んぅ……クラウスぅ……。  もう……飲めないですぅ……」


「……やれやれ。子供ですね。  ほら、カップを離して。こぼれますよ」


 クラウスが半分目が閉じてしまっているアリスからカップを取り上げようとする。軽く引っ張る形となり、アリスはバランスを崩し、コテッとクラウスの方へ倒れ込んでしまった。

 クラウスの胸板に、頭を預ける形になる。


「……ん……あったかい……。  ……いい匂い……枕……?」


「……っ!」


 寝ぼけているアリスがクラウスの素肌に頬ずりする。アリスの体温が伝わってくる場所が熱くなり、柔らかい髪が首筋をくすぐる。胸元にすっぽり入った小さな体からは甘いミルクの香りとお風呂上がりの匂いが鼻をくすぐった。


(……おい。  僕を枕代わりにするのはいいですが……そこは素肌だ。  そんなに無防備にすり寄ると、まるで襲ってくださいと言っているようなものですよ?)


 理性(昼の顔)が「部屋に運べ」と叫び、  本能(夜の顔)が「このまま朝まで閉じ込めろ」と囁く。


「……アリス様。起きてください。  ……寝たふりなら、お仕置きしますよ?」


「……すぅ……すぅ……」


「……はぁ。本当に、貴女という人は……」


 アリスは完全に寝入ってしまったようだった。

 クラウスは諦めたように(でも満更でもなさそうに)、アリスの肩を抱き寄せ、その頭を自分の首筋に固定する。  そして、誰にも聞こえない声で、寝息を立てる彼女の耳元に囁く。


「……いいでしょう。  今夜は、夢の中でも僕に捕まっていてください」


 そして、アリスの身体を抱き上げ、自分の部屋を後にした。


 ◇◇◇


 アリスの私室の寝台に、そっとアリスを下ろしてその傍らに腰掛ける。


 無防備に寝ているアリスの顔を、クラウスは至近距離でしばらく眺めていた。  ふっと魔が差して、唇に触れようと顔を近づける。


(……これだけ無防備なら、一つくらい盗んでもバレないでしょう)


 あと数センチ、というところまで迫った時。  アリスが寝言でむにゃむにゃと呟く。


「……んぅ……神様ぁ……。  ……クラウスに……いいことが……ありますようにぃ……」


「……っ」


 ピタリ、と動きが止まる。  自分を盗み食いしようとしている男のために、夢の中でまで祈っている。  そのあまりの「聖女っぷり(純粋さ)」に、毒気が抜かれてしまう。


「……はぁ。これだから貴女は……。  こんな祈りを聞かされては、悪さはできませんね」


 クラウスは苦笑して、キスをする代わりに、布団を肩まで掛ける。


「……いいこと、ですか。  貴女がこうして無事に寝ていることが、僕にとって一番の『いいこと』ですよ」


 ◇◇◇


 日が昇れば、いつも通りの騒がしい日常が訪れる。

 リリアはエリアスの執務室に呼ばれて不在だったが、アリスは控室でご機嫌な様子だった。


「クラウス! また私のためにタルト買ってきてくれたんですか?  ふふん、さては貴方、私のことが好きなんですね?」


 それもそのはずで、アリスの前に置かれたのは大人気パティスリーの看板商品イチゴタルトと美しい琥珀色の紅茶だった。

 もちろん、事前リサーチ済みの品である。


「……寝言は寝て言ってください。  餌を与えておかないと、貴女が空腹で暴れだして、公爵邸の平和が乱れるからです。  これは『猛獣の餌やり』ですよ」


「むぅ……素直じゃないですねぇ。  まあいいです! いただきまーす!」


 アリスは嬉しそうにタルトを頬張る。  その笑顔が、陽の光を浴びてキラキラと輝く。


(……っ。  はぁ、やはり可愛いな。  まったくなんて幸せそうな顔なんだ。もっと餌付けしたくなる……!)


「……口の端にクリームがついていますよ。  しようがないですね」


 スッと伸びた親指が、アリスの唇の端をなぞる。


「っ!?」


 突然、唇に触れられアリスは呆然と固まった。みるみる内に顔が真っ赤に染まる。


「……? どうしました?  ああ、すみません。つい手が出てしまいました。  ハンカチ、出しますね」


 クラウスはアリスの様子に頓着せず、にこりと笑うだけだった。

本作は第二部・アリス編に突入しておりますが、おかげさまで日間ランキング179位に返り咲くことができました!皆様の温かい応援に、心から感謝申し上げます。


別作品になりますが、完結と新連載のお知らせもあります。


①『不貞腐れ令息』完結!

無口な彼が裏で何を画策しているのか……。3/1の日曜夜に「完結」しました!


全8話、エンドマークまで一気読みして頂けますので、よろしくお願いします。

早速、評価&応援して頂けて嬉しいです!

本文下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、今後の執筆も捗りますので、是非よろしくお願いします。


「断罪された悪役令嬢は、不貞腐れの貴族令息の幸せをつかむ」

https://ncode.syosetu.com/n1659lv/


②本日3月2日(月)21:00より、以前から予告しておりました新作の連載を開始いたします!


『「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢、放蕩王子(Sub)の管理を事務的に行っていたら、なぜか溺愛されています。』

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/3062421/


「Face Me,」――その一言が、血塗られた王子の救いになる。

今回は「Dom/Subユニバース」という特殊な絆を描く、全14話・34,000文字の濃密な物語です。


本作(君を愛してる)とはまた一味違う、事務的で冷徹な令嬢と、彼女にだけは従順な王子の「重すぎる愛」をぜひお楽しみください!

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