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【完結】「君を愛してる」と脅されても、もうすぐエンディングなので全力で応援します! ~悪役令嬢ですが、ヒロインと婚約者様が結ばれるのを待ってるんですが?~  作者: ましろゆきな
第二部:聖女と騎士の恋騒動編

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第二十話:【第二部・開始!】地獄の人事異動

「どきなさい! 今、リリア様の部屋から『天使のあくび』が聞こえたのです!  録音させて! 1秒でいいから!!」


 公爵家の廊下で今日もアリスと騎士の押し問答が繰り広げられていた。


(はわわ……聖女様の熱意……尊い……通して差し上げたい……)


 リリアの私室前で護衛する騎士たちは「誰も通すな」と主から命令を受けていたが、聖女に声をかけられ、命令を破りそうになる。


 しかし、――。


「却下します。  リリアーナ様はお着替え中です。覗きは犯罪ですので、あちらのソファでお待ちください」


 一人の長身の騎士がすっと前に出てアリスの襟首を掴んで、ゴミ袋のようにズルズルと引きずり離す。


「放せーーッ! この無礼なモブがーーッ!」


(相変わらずだなこの聖女様は。今日も人をモブ呼ばわりするし。この前、名乗ったはずだがな)


 大きなため息とともに近くのソファにアリスを座らせる。


「はい、離しましたよ。諦めて、公爵夫人のお着替えが終わるのを待ってて下さい」


 そのやり取りを面白そうに眺めていた人物がつかつかと騎士に近づいてきた。


「君、名前は?」


「!」相手の姿を見て、慌てて膝をつく。「はっ、閣下! クラウス・バーニエと申します!」


「クラウス・バーニエ卿か。……いい動きだ。  他の能無しどもとは目の付け所が違う」


 エリアスはそう言ってにやりと笑った。


「は、恐縮です」


(ただ常識的に動いただけなんですが……)


 クラウスは緊張した表情で叩頭する。


「ちょうどいい。本日付けで、リリアの専属護衛に任命する」


「……はい?」


(え、出世? いや待て、それはつまり……)


 恐る恐る顔を上げると満足げな表情のエリアスと視線があった。


「主な任務は『害虫駆除(アリス除け)』だ。  リリアの半径5メートル以内に、あの狂犬を入れるな。  ……それと」


 エリアスの目が、スッと細められる。


「リリアは可愛いだろう?  だが、もし彼女に指一本でも触れたり、いやらしい目で見たりしたら……わかるね?」


 言わずもがな。公爵の夫人への並々ならぬ執着はこの邸宅に仕える者には基本的常識だった。


(……前門に魔王、後門に狂聖女……。ハードモードだな……)  


「……命に代えても、任務を遂行いたします」


 無論、クラウスに否やの返事は許されない。ただ静かに叩頭するのみだった。


 ◇◇◇


「キーッ! なぜ貴様がリリア様の横にいるのですか!  そこは私の聖域(サンクチュアリ)ですよ!?」


「閣下の命令です。諦めてください。  あと、リリア様の食べかけのスコーンをポケットに入れないでください」


 昼下がりの中庭。東屋でお茶を楽しむリリアの周りは今日も騒がしかった。


 自分の仕事はどうしたんだと思うほどにアリスはリリアの行くところ行くところに現れ、護衛するクラウスのため息を誘うのだった。


(クラウスさん、いつもありがとう……。胃薬、私の分もあげるわね……)


 リリアの今日何度目かの気遣うような視線にクラウスは頷いて見せる。


(この公爵邸の良心は、公爵夫人だけだな……)


 これはリリアの護衛につくようになりわかったことだった。


 リリアーナ・ド・グランヴェル公爵夫人。

 世間では『魔王と聖女を操る、冷徹な女帝』などと噂されているが、『愛の重い夫と、聖女(ストーカー)に付きまとわれ胃薬が手放せない常識人』だ。


 一方で、主であるエリアス・ド・グランヴェル公爵は『国を守る、威厳ある魔法の使い手』と人々の尊敬を一身に集めているが、その実は『理性ある狂人』だ。

 リリアーナ夫人以外には一切興味がなく、邪魔するなら国ごと消すことも厭わないだろう。それが「守護者」に見えているのは、夫人が首輪を握っているからに過ぎない。


 クラウスは主に絶対逆らわないと改めて誓い、職務に励むのだった。


 ◇◇◇


 ある日の夕方。  アリスは、教会の要請を受けて公務を行って、クタクタになって屋敷に戻ってきた。  リリアに会いに行く元気もなく、中庭のベンチでぐったりしている。


「はぁ……。今日も疲れました……。  民衆の期待に応えるのも楽じゃありませんね。  肩は凝るし、笑顔の作りすぎで頬が筋肉痛です……」


 大きな独り言を呟いているところに、見回中のクラウスが通りかかった。


「……珍しいですね。リリア様の部屋に突撃しないんですか?」


「あ、モブ騎士……。  今日は無理です。魔力切れで、結界破るどころかドアノブを回す力もありません」


 普段なら「ざまぁみろ」と思うところだが、今の彼女はただの「仕事に疲れた等身大の女性」に見えた。しかも、また『モブ騎士』呼ばわりするし。


 小さくため息を付いてクラウスは、冷たい飲み物を差し出す。


「どうぞ。……お疲れ様です」


「……? お供え物ですか?  私に祈っても、今は何も出ませんよ?」


「違いますよ。ただの差し入れです。  貴女が今日、街で多くの怪我人を治したという報告は聞いています。  ……リリア様絡みじゃなければ、貴女は立派な人だ」


 アリス・ミルトン。世間では『慈悲深く清らかな、奇跡の聖女』と言われているが、『リリアのことになるとIQが3になる変態(ストーカー)』だった。

 そして、『残念な美人……でも、仕事はできる』らしいこともわかってきた。ふとした瞬間に見せる「聖女としての実務能力」や「素の表情」は、確かにすごい。


「……は?」


 アリスは目を見開く。  「聖女様ありがとう」という崇拝でもなく、「変態女」という軽蔑でもない。  ただ「仕事ぶり」を評価し、「一人の人間」として労ってくれていることに驚いたのだ。


「……生意気ですね、貴方」


 クラウスから飲み物を受け取るアリスの顔は少しだけ赤くなっていた。


 ◇◇◇


 ある日の午後。  リリアは、護衛についたクラウスを手招きし、こっそりとノートを渡す。


「……クラウスさん。これ、受け取って」


「? これは……?」


(まさか、エリアス閣下の愚痴……とかじゃないですよね? 命が惜しいんですが)


 眉をひそめるクラウスにリリアは小さく笑って見せる。


「そんな変なものじゃないわ。『アリスの餌付けリスト』よ」


「はい?」


 リリアは、遠くで警備兵と揉めているアリスをほほ笑みを浮かべたまま見て、小声で解説する。


「あの子、聖女様として扱われてばかりでしょ?  だから、高級な料理よりも、『屋台のジャンクな味』とか『季節限定の甘いもの』に弱いのよ。  特に、東通りの店の『激甘クレープ』。あれを与えると、3時間は大人しくなるわ」


「……なんと。具体的かつ戦略的な情報ですね」


「ふふ。あの子、騒がしいけど根は素直で可愛いのよ。  ……クラウスさんみたいな『しっかりした人』が側にいてくれたら、私も安心なの」


「……奥方様。その『含みのある笑顔』はやめてください。  ……まあ、情報には感謝します。任務(アリス封じ)に役立てますので」


 そこへ、背後からぬっとエリアスが現れた。

 クラウスは直立不動になるが、エリアスはリリアの肩を抱き寄せながら、クラウスに金貨の入った革袋を投げ渡す。


「リリアがそう言っているんだ。  おい、クラウス。アリスの『飼育費』なら城の経費で落としていい」


「飼育費……ですか」


「ああ。最高級の餌を与えて、二度とリリアの視界に入らないように飼い慣らせ。  ……もし上手くいったら、ボーナスも弾んでやるよ」


「……はっ。善処します」


(この夫婦、方向性は違うけど利害が一致しすぎている……)


 リリアの警護よりもアリスの世話係がメインの業務になりそうな雰囲気だった。


 ◇◇◇


「ムキーッ! 今日もリリア様に会えませんでした!  ストレスで聖女の仮面が剥がれそうです!」


 リリア私室の控室でアリスがぷりぷり怒っていた。


「はい、アリス様。  『東通りの激甘クレープ』です。チョコ増しにしておきました。  まだ温かいですよ」


 クラウスがアリスにお菓子を差し出すと、それまでの不機嫌はどこへやら、キラキラした瞳でクレープを見つめた。


「ッ!? な、なぜ私が今一番食べたかったものを……!?  まさか貴方、読心術のスキル持ちですか!?」


「まさか。ただの勘ですよ」


 本当のところは『リリア様のアリス攻略リスト』に載っていたのだったが。


「ふ、ふん! 今日のところはこれで勘弁してあげます!」


 強がるアリスはクラウスからクレープを受け取って、嬉しそうに食べ始める。


(奥方様の情報は正確だな……扱いやすくて助かる)


 大人しくなったアリスを眺めるクラウスの脳裏ににっこり微笑むリリアの姿がよぎるのだった。


 もぐもぐ、もぐもぐ――


 年頃の淑女のはずだが、アリスは子供のようにクリームいっぱいのクレープを頬張って食べ続ける。


 その頬のあちこちにクリームがついてしまったが、拭うつもりはないらしい。


「……じっとしてください。  いい歳をして、子供みたいに食べかすをつけて。  貴女の世話係になった覚えはないんですが」


 そのまま放っておけずにクラウスは、ハンカチでアリスの頬についた食べかすを丁寧に拭きとった。


「むー、子供扱いしないでくださいよー」


「いや、子供でしょう?」


 アリスのムスッとした顔に思わず頬がゆるむクラウスだった。


 ◇◇◇


 その日もクラウスは、控え室のソファで暴れるアリスを冷めた目で見下ろしていた。  汚れのついた聖女服。散らばるお菓子の食べカス。  どう考えても「害悪」でしかない。


(……はぁ。なんで僕は、こんな騒音の塊を部屋に置いているんだろう。  さっさと摘み出して、鍵をかければ済む話だ。  そう。今すぐこの首根っこを掴んで、廊下に放り出せば……)


 クラウスの手が伸びる。  しかし、アリスがふと顔を上げ、きょとんとこちらを見た瞬間。  窓からの日差しが、彼女の透き通るような金髪と、長い睫毛を照らし出した。


「? どうしました、クラウス」


(……チッ。  これだ。  黙っていれば、造形だけは腹が立つほど僕の『理想』そのものなんだ)


 クラウスは伸びかけた手を引っ込め、代わりにハンカチを取り出す。


「……いえ。顔が汚れていますよ。じっとしてください」


(本当に、神様も悪趣味なことをする。  中身さえ違っていれば、こんないい女はいないっていうのに)

本日より第二部開始です!

アリスをメインに護衛騎士クラウスの執着っぷりを楽しんで頂けたら嬉しいです。


第一部主人公のリリアとエリアスも活躍しますのでお楽しみに!


もし面白かったと思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、作者が泣いて喜びます……!


第二部もよろしくお願いします。

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