045
「ラガルハーネル様、ただいま戻りました」
優雅に一礼をして、スカートを摘む。
と言ってもドレスを着ているわけでは無いから、エスメラルダがやるには異質かもしれないのだけれど。
「おい! 危ないだろう?!」
てっきり、そうかとでも返ってくると思っていたのだが、結果、返答は罵倒と言う名の私を心配する言葉だった。
…何故? 私は悪役なのに。
「大丈夫ですわ。屋敷では、いつもリトと訓練していましたから」
「そうではなくてだな……まぁ、終わったことはしょうがないか…だがな、これからは何かする前に僕に相談しろ。行動するのはそれからだ」
「…?…それでは私の行動は何もできなくなってしまいますわ」
「なぜだ」
一段階、殿下の声が低くなった。
なにかに、怒ってる?
「それでは私は動くこともできません。…ラガルハーネル様は私を人形にしたいのですか…?」
お粗末な人形が悪役令嬢にはお似合いって事…?
「ちが…」
「違うのですか…?」
すると、殿下は一つ、諦めたように大きなため息をつき、私に言った。
「はぁ、エスメラルダは真面目すぎるな…、もう少し肩の力を抜いても良いんだが…。よし、金は集まったしどこか店にでも行くか」
「!……ええ!」
私達は、とある商家らしい家の屋根に降り立つと、そのままダッと大通りまで走りきる。
こんな時、エスメラルダは運動神経が良くて良いよね。
大通りまで出れば、もう心配は無い…筈?
衛兵にさえ見つからなければ連れ戻される心配もない。
つまり、じ ゆ う!!
甘いお菓子や可愛い洋服やお人形、良い匂いのする香水やエレガレントな帽子屋さん。
町中の全てが集まったようなこの道は、活気に溢れ、人々の笑顔で満ちている。
さっきのことが、まるで嘘だったように。
私達は、目に入ったシックでおしゃれなカフェで休憩を取ることにした。
勿論フードはかぶったままなのだが、これはちゃんと店員さんに許可をもらったのことだ。
多めにチップを渡せば逆に嬉しがる程度のことだろう。
「ラガルハーネルは何をお飲みになられますか?」
「ぼくは…そうだな…ニルギリのレモンティーだな。エスメラルダは?」
「私は…そうですわね…ディンブラのレモンティーで、お茶請けにフルーツを頼もうと思います」
「なら僕もお茶請けはフルーツにするか」
「少し、運動した後なので、それが一番だと思いますわ」
運動、とにごしたのは、勿論魔法を使った事。
魔法は体力を使う。
良く、某漫画などで魔法を使い過ぎたものが倒れてしまう…なんて描写が良くあるが、ここ《プラネット》では、そう言う現象がよく起こる。
ヒロインの姫巫女…アカリ様のイベントで、たしかテーマス様ルートだったと思うけど…。
姫巫女が…回復魔法を使い過ぎて倒れてしまった彼女をテーマス様が連れ帰り、看病するという…て、言うかテーマス様ルートへのインorバックがかかったイベントだった気がする…。
フルーツにはビタミンが豊富だし、体にも良いだろう。
それに、ニルギリにもディンブラにも合うし。
注文をして、すぐに紅茶もお茶請けも用意される。
本日のフルーツ盛り合わせは、林檎と蜜柑、梨の蜂蜜がけだそうだ。
この季節のフルーツは、酸味が強いため、このくらいがちょうど良いのだそう。
その代わり、レモンティーに入れる角砂糖を少なめにする。
ディンブラは少し苦味があるため、レモンティーで飲むのが一般的だ。
ミルクティーでも美味しいが、やっぱり私はレモンティーの方が好きである。
「うん…ちゃんと淹れてあるな。うまい」
「はい…硬水…ですね。ちゃんと一から淹れてあります。砂糖もちゃんと白いですし」
「この店はあたりか。…でもこれで商売になるのか?」
殿下の言葉に私は伝票をみる。
「えっと…値段は……え?」
「どうした?」
「き、金貨60枚だそうです…」
「は?」
「金貨60枚だそうです…ラガルハーネル様」
金貨60枚。
土地によれば家でも買えそうな値段だ。
ぼったくりめ。
カジノで稼いできたから足りるものの、危ないところだった。
「…ラガルハーネル様、出ましょう。紅茶も…何が入っているかわかりません」
「…少量の麻薬が混じっている。慣らされているとは言え、飲まない方がいいだろうな」
「そうですね」
私達は、ティーカップを置くと立ち上がる。
レジの下にナイフを持った黒服の男が一人。
こんな格好の私達を入れたのは…金を払えなかったら奴隷にでもするつもりだったのだろう。
外道めが。
「お会計は金貨70枚です」
…は?
計算もできないと思ってるのか?
「…金貨60枚のはずですが」
「……失礼いたしましたー! 金貨60枚でございます」
受付嬢が困惑している。
本当に馬鹿にして……後でこの店は潰そう。
それから…奴隷にされた人たちを助けなくっちゃいけないし…。
じゃら、と金貨が入った袋を殿下が受付嬢に投げつける。
「お釣りはいらないから。…あんまり悪いことすると、痛い目見るよ?」
…それからこんな事を言っていた。
私に読心術は使えないので、読唇術だが、だいたいあってると思う。
…怒ってるし。




