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046

 …殿下、おこってる、よね。


 さっきの店から、殿下はどこか不機嫌だ。

 話しかけても笑ってくれない。


 …あの店は潰すの決定かしらね。


「あの…ラガルハーネル様?」


「なんだ?」


「怒って…いらっしゃいますか?」


「別に」


「そうでございますか」


 …さっきからずっとこんな感じ。

 言葉を変えて、同じ質問を繰り返しているけれど、答えは変わらない。


「ーー助けて」


 ーーえ?


「ラガルハーネル様、今、助けてっておっしゃられましたか?」


「いや…僕ではない…。が、確かに聞こえた」


 か細い、消えてしまいそうな鈴のような声。

 この、賑わう街の中で、そのこえだけが、やけに鮮明に聞こえた。

 美しい…どちらかというと妖精であるラルダに似ているような…。


「ー助けて」


 …近くなった。

 殿下にも聞こえたようだ。

 私達は目配せして、声が聞こえた方向へと早足で歩き出す。

「助けて」と言っていたのだから、危ない状況なのかも知れない。


「あの…ラガルハーネル様…その…」


「…分かっている。助けたいのだろう? 行くぞ」


 えっ…!


「は、はいっ!」


 エスメラルダっぽくない…子供のような声で返事をしてしまった私に、殿下は不意をつかれたように目を丸くしたけれど、何故か表情を柔らかくして私を見ていた。


 お忍びの格好で、下町を走る。

 まさか誰も、王子と公爵令嬢が、貧相な格好をしてこんなところを護衛も付けずに走り回っているなんて思わないだろう。


「助けてー」


 声が、だんだん近づいてくるけれど、それに連れて、声は、より悲壮なものへと変化してくる。


「…不味いな……」


 前を走る殿下にも、焦りが見えた。

 そのときだった。



「助けてぇぇええええ!!!!!」



 喉が張り裂けるばかりの大声。

 か細いばかりだったはずの、小さな声はどこえやら。


 …って、そんな場合じゃない。


 私は、殿下の制止も聞かず、少女の前へ飛び出した……って、アカリ様っ?!


 そうか…これ、イベント…。


「あぁ…エスメラルダ様……。カリスラトリヌ様…お守りくださってありがとうございます…ぅ」


 …姫巫女様? まだ助かったわけじゃないっていうのに…。

 てか、カリスラトリヌって…創造主なんて信じてたのね。

 そりゃ、神様はいると思うけど…(実際、見たし聞いたし)けれど…。


 …自身が姫巫女なのに。


 ユーニ、今どうしているのかしら。

 フラグ折るの難しすぎるんですけど。


「お、お前、なんなんだっ!!」


「私、私は…? 通りすがりの公爵令嬢よ。《ウォーターアミューズメント》」


 アカリ様を襲っていた一味のリーダーらしき人物に、一発、魔法をお見舞いしてやる。

 別に、この水魔法は、エフェクトが大きいだけで、そこまでの効果はない。


 …が、一般人をビビらせるには十分よね、ふふっ。


「ううぅ…、エスメラルダ様、味方のはずなのにぃ…笑ってるのに…笑顔が黒いですぅ〜」


 アカリ様…泣きすぎて変な喋り方になってるけど…ってか殿下は?


 辺りを見渡してみると、殿下は、雑魚を捕まえて光のロープで縛っていたらしい。

 魔法、使っても良いのかしら。

 そりゃあ、姫巫女は魔力持ちだし、それ以前に殿下と姫巫女は兄弟だし…って、姫巫女廻り者なんだから、自分が殿下の御兄弟って、知っているはずでは…。


「ラガルハーネル様」


「ん、ああ。こっちは終わった。電気も喰らわせたから、しばらくは再起できないだろう」


「そうですか」


 殿下が言うなら信頼できるかな…嘘はつかないと思うし。


「…と言うかな」


「?」


「何故、あいつら…外道の前に飛び出したんだ。危ないだろう」


 …心配…してくれてたの?

 どうして?


 私は…悪役令嬢なのに。

 どうせ…どうせどうせ…裏切られるのは私で。

 姫巫女が…ヒロインが…あなたと結ばれるのでしょう?

 私が、エスメラルダが、どれだけ願っても叶わない…願うことさえ許されない決断を…。

 あなたは私に下すのでしょう?


 なのに、どうして…。


「…あれが、最善だと…思いました」


 ただ、ヒロインを最優先しただけ。

 これは、イベントなのだから、ヒロインのバッドコース入りもあり得たから。

 …でも、私はそれを望んで居るわけではない。


 破滅したくないだけ。

 追放されたくないだけ。

 死んでしまいたくないだけ。


 ただ、それだけだから。


「それでも、僕に一言告げるべきだっただろう」


「はい」


 あなたが私を守るのは、守ろうとするのは何故?


 同情? 立場?


 それとも…もしかして…本当に私のことを…。

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