044
平民の服に着替えた私は、殿下の待つ、裏門へと向かっていた。
「遅れて申し訳ありません」
「本当にな」
……。
「ほら、行きましょう? ラガルハー……ダリウド様?」
私はお忍びだからと思ってそう呼んだのだけれど、殿下にとって、『ダリウド』は黒歴史らしく、静かに額に青筋を浮かべていた。
「…それはやめないか? クレア嬢」
…チッ、覚えていたか。
…お忍びになると、なんだか、腹黒くなってしまうのだけれど。
お忍びだし、問題ないわよね。
殿下だって、怒りながらも乗ってきてるし、これで不敬罪は無いはず。
「…で、どこに向かっているんだ?」
校門から歩いて約三十分くらい。
だんだんと治安が悪くなっているようにも思える細い路地のような道を通って着いたのは…。
「カジノです。ラガルハーネル様」
見よ! この殿下の呆れた顔を!
と言いたくなるくらい、唖然とした顔をして殿下は私を見てきた。
…解せぬ。
だって、路銀が無いのだもの。
しょうがない。
一応二人、フードを被って中へ入る。
煌びやかな装飾がされながらも、どこか不穏な空気をまとったここは、紛うことなく、殿下と初めて出会った場所だ。
…まぁ、違う店なのだけれど。
ポーカー、ブラックジャック、スロット、ビンゴ、ルーレット、バカラ、キノ、ダイスなど。
裏では競馬もやっていた。
「さぁ、ラガルハーネル様。イカサマでもなんでもどんどん路銀を稼いでくださいませっ」
「…お忍びでくるのがここか?…いや、逆か。お忍びだから金がないのか」
「まぁ、そういうことですわ。それに、私とラガルハーネル様が出会ったのもカジノでしょう?…ダリウド様」
皮肉を込めてそう笑ってみると、殿下の目に、怒りの火が灯ったのが、ひしひしと伝わってきた。
「では、クレア嬢、ここは一つ勝負と行かないか?」
「勝負ですか?」
「そうだ。制限時間は…そうだな…30分。どちらか多くの路銀を集められたかが勝敗を決める。どうだ?」
「面白そうですね…やりましょう」
始まりは、唐突に。
私がやりましょうと行った瞬間に始まったらしい。
殿下は、さっとポーカーの方へとそれていった。
私は…無難にブラックジャックかな。
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イカサマにイカサマにイカサマで勝ちまくった私は、最後には大博打であるバカラにまで手を出して、そして、パパっと勝っておいた。
負ける勝負は買わないの。
もう、約束の30分だ。
そう思ってあたりと見回してみると、黒いフードをを被った殿下が私の元へと走ってきているのがわかった。
「あ、殿ーー「逃げるぞ」…え?」
みると、屈強な男達が殿下…話しかけ私も、追いかけてきていた。
…なにをしたんですか…ラガルハーネル様。
ダッと店を出て、ここよりも人影のない人の気配すらしない路地へと入る。
そうじゃないと、魔法が使えないから。
殿下がフードの下で魔眼を発動したのを確認して、私も、太ももに装備してあるリトからもらった氷の短剣に手を掛けた。
「殿下…飛びます」
「は?」
だが、私は、正面から戦うことを避け、一旦殿下とともに精霊魔法で空へと浮いた。
「エスメラルダ…飛べたのか…いや、それ良いんだが…その、な…」
今、私は、ラガルハーネル様をお姫様抱っこで抱いている。
…だって一番これが手っ取り早かったのですもの。
「…エスメラルダ、おろせ。自分で飛ぶ」
流石に恥ずかしかったのか…殿下は自分の魔眼を発動させると、自力で浮かび上がり、私から離れた。
ちなみに、下からはちまちまと矢が飛んで方いるが、そんなものが当たるはずもない。
が、ずっとこうしているわけにもいかない。
護衛を呼んだら即帰宅だし、それは嫌だ、却下。
残る手段は一つ。
あいつらを倒す事。
「ラガルハーネル様、あいつらを眠らされるとか麻痺とかできる便利な魔法使えたりします?」
「使えん。いや…爆風で気絶…とかなら?」
…うん、やめとこう。
しょうがない。
ここは私の出番ですっと。
「では、10秒…ちょっと待っててください」
私は返事を待たずに浮遊を解いて落下する。
その勢いのまま、短剣の柄で男の首を叩いて気絶させる。
しんではいない…はず…。
残りは、短剣に込められたリトの魔力を使って足元を凍らせ、一人づつ気絶させて腕を魔法の光の紐で縛る。
…これで、5秒。
もう一度浮遊をかけて空は浮き上がり殿下の元へ行くまで5秒。
うん、ぴったり。
私は手をパンパンと払って、殿下の元へと飛び上がった。




