035
結局あの後、リトは見事、父と母を丸め込み、再来週から特別に編入生として入学してくることになったそうだ。
私でさえ、一年早い早期入学なのに、リトは二年も早くに入学してくることになる。
勉強面では問題ないだろうけれど、友人関係は…。
…それに、この、目は……。
この世界には、カラーコンタクトも無いので、瞳の色を変えることすらできない。
そうでなくとも、公爵ともなれば目立つというのに。
それに、私が魔法を使ってしまったから、その弟であるリトは、あらぬ疑いをかけられてしまうかもしれない。
人の、リトの心が読めればいいのに。
…そういえば、ラガルハーネル様はどうしているのだろう。
怪我の方は、多分大丈夫なのだろうけれど、ああ…此処で婚約破棄とか言われたらどうしよう。
そのままアカリ様のゴールイン…。
私はそのまま原作補正で死罪、もしくは追放だったりして…。
わ、笑えない。
こうならないために、今までいろいろ頑張ってきたのに。
ああ、どうして私は悪役令嬢として生まれてきたんだろう。
ヒロインだったら良かったのに。
ヒロインだったら、こんな事になることも、こんなに苦労することもなかった。
《プラネット》をやってた時は、ヒロインが邪魔だったけれど。
…ある意味、今もそうかもしれない。
だって、アカリ様さえいなければ、攻略キャラ達が私を追放する…まず第一に、エスメラルダはそのままラガルハーネル様とゴールインできたはずだもの。
まぁ…もし、アカリ様の中が、日本人だとしたら仲良くなれるかもしれないけれど。
いっそ、攻略キャラ全員譲るから、処刑と追放にだけはしないでって、取引持ちかけたら、案外上手く行ったりして…。
「…あり得ない、わね」
私は、今日、教室へ行っていない。
入学式は明日だが、教師から半日停学を食らったのだ。
…危険魔法の行使、という名目によって。
なんで、魔力持ちが魔法を使うと、誰かを守ろうとしてやった事でも『危険』って言葉がつくのかしら。
こんなの、理不尽だ。
今の時間は、午後6時を回ったところ。
さっき、早めの風呂と夕飯を済ませたから、もう、寝るだけだ。
「少し早いけれど…寝ましょうか」
明日は入学式で早いのだから、そう、自分で結論付けた私は、魔法で照らしていた部屋で唯一のライトを消し、どこか不安な気持ちでベッドに入った。
翌朝、1日ぶりに制服を着て体育館へ向かう。
外へ出て着た私を見て、何人かがヒソヒソ、ヒソヒソと…多分、悪口だろうけど、噂をしてる。
「…魔力持ちが、なんで公爵令嬢なのかしら」
「…普通、魔力持ちなんて産まれたら捨てるか、…殺すかよね」
「ふふ、ドルベラーネル公爵様も、娘可愛さに判断を見誤ったのよ」
「…その上、不貞の末できた子供を次期当主に指名するなんて」
「その上、魔力持ちなのでしょう?」
「あぁ、怖いわ」
「でも、エスメラルダ様は殿下の婚約者だって…」
「あら、直ぐに破談になるに決まってるわ」
「それもそうね」
…わざとやってるのかは知らないが、聞こえるか聞こえないか、微妙な声の大きさで、結構な悪口を言っている。
確かに、不貞は、父が悪いけれど…。
本当、魔力持ちのなにが悪いのかしら…。
「エスメラルダ」
…この声は…。
「…ラガルハーネル、殿下」
「…平気か?」
「…何がでしょうか」
分からないふりをして、キョトンと首を傾げてみせる。
殿下は言葉を飲み込むようにため息をつくと、何故か後ろを振り向いた。
「…殿下?」
私が問うと、それに被せるように、殿下が口を開いた。
「そこの令嬢たち」
…と。
すると、悪口を言っていた令嬢たちは、あからさまに顔を赤くしてもじもじと…上目遣いで殿下を見始めた。
…まぁ、顔はカッコイイわよね。
ただ、令嬢たちは次の言葉で顔を真っ青にする事になる。
「君たちは、エスメラルダと僕が婚約を解消すると思っていると耳にしたんだが…本当かい?」
え? と、令嬢たちが顔を上げた。
「…それなら、おかしいな。僕は、エスメラルダに惹かれ、自分からエスメラルダに婚約を申し込んだんだ。…君たちにそれをどうという権利はないはずだ。それとも、王家を侮辱したのか?」
…言い過ぎだわ。
別に、気にしてないって言ってるのに。
…ていうか、…これ……告白?
そんな私など構う気力も無いのか、令嬢たちは顔を真っ青にし、頭を必死に下げ、「申し訳ありませんっ」と、叫ばんばかりに喚いている。
「次、こんなことがあれば…分かってるよな」
ドスと睨みを効かせた…殿下らしからぬ笑顔で、そう言い放つ。
令嬢たちは怯えながら、体育館へと逃げていった。
「ジェニス、あの三人の令嬢を調べろ。ちょっとでも黒があれば徹底的に叩くように」
「はっ」
殿下は、自分の護衛である、ジェニスにそう言いつけると私に「行くぞ」と言い体育館へと進んでいった。
あの令嬢たち可愛そうね…。
「で、殿下っ」
「ん、なんだ。お前も言い返せ。あれは、お前だけでなく公爵家…つまり、反逆ととってもいいほどだったぞ」
「そ、そうではなくてですね…」
…言いたいことは、分かってるはずなのに。
「一昨日の事ですよ…きみわるく、無いのですか?」
…ああー、言っちゃった。
これで、もう終わりかな…。
「…ああ、一昨日の事か。あの時は助かった」
「…はい?」
「怪我を、治してくれただろう?」
…っ、でも、あれは…。
「あれは、元々私のせいですから、当然、です…」
「僕は、魔眼のほかに、もう一つ能力があってな。これは、父しか知らないんだが…読心術、サイコメトリと呼ばれる能力だ」
…え?
「この能力は、触った人の心を断片的に読み取る能力だ。……あの時のお前の感情は、《恐怖》だったぞ」
…当たり前だ。
一人になるのが、嫌われるのが、…死ぬのが、怖かったのだから。
それにしても、殿下がこんな能力を持っていたなんて。
《プラネット》には、描かれていなかったのに。
…ここは現実であってゲームでは無いって言いたいわけ? 神様ってヤツは…。
キーンコーン カーンコーン
あ、チャイム…。
「急ぐぞ」
「は、はいっ」
さぁ、ここからやっと、波乱と希望と絶望の、《プラネット》が始まる。
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