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025

 とうとう、この日がやって来てしまった。

 今日は、学園へと出発する日。

 そして、《プラネット》この物語が、始まる日。

 学園の制服に身を包んだ殿下が馬車から降りて来た。

 かくゆう私も新しい制服に身を包み、髪を結わえ、メイクを施している。


「さぁ、エスメラルダ。馬車へ」


 殿下がそう言い手を差し出す。

 私はその手を取り、殿下の完璧なエスコートを受けて馬車へと乗り込んだ。

 これは、クローエフェアラ家と王家の友交の証。

 街を、国を出るまでは、決して笑顔を崩してはならない。

 優雅に微笑んで、窓から平民に手を振り続けなければならない。

 私も殿下も笑顔を貼り付けて窓から外を覗いた。

 そこには沢山の平民が、期待と、羨望と、嫉妬とを目に浮かべ私たちを見つめていた。

 私は、その吐き気がするような嫉妬の視線を振るい切ると窓から手を振る。

 殿下も同じように感じたのか、小さくため息をついたのが聞こえた。

 だが、それはすぐに営業スマイルに隠された。



「あ、あぶなっい!!」


 すると、急に馬車が急ブレーキを踏み止まった。

 ガタンっと、馬車が揺れ……私の唇と殿下の唇が……重なった。


「「つ、!、」」


 二人、一緒になって顔が真っ赤になった。

 貴族や皇族、王族はこういう事に疎い。

 政略結婚はあたり前。

 まぁ、娼館は有るのだが。

 それに、貞操概念が根付いているため、平民でさえ結婚するまでそういうことはしないらしい。

 つまり、娼館に行っている人のほとんどが既婚者と言うことだ。

 ……信じられない。


「あ、あのっ…す、すみまぅ」


 …噛んだ。


「…い、いや。こちらこそ済まない。事故とはいえ乙女にく、口付けをするなど」


「い、いえ。事故ですし、し、あぅ」


 …噛んだ。

 ……痛いです。


「そ、そういえば何があったのだろうな」


 …そうだった。

 馬車が急ブレーキをかけたから私たちは、その…き、キスをしちゃったんだった。

 私はドアを開けて外に出た。

 そこにいたのは…。


「姫、巫女?」


 私はボソッとそう呟いた。

 《プラネット》の姫巫女と同じ顔。

 美しい、と言うよりは可愛いと言う言葉が似合う、日本人のような少女。

 童顔だが、どこか儚い。

 守ってあげたくなるような雰囲気を持った少女。


 心臓が、跳ねる。

 ドクン、ドクンっ、と脈が速くなって苦しい。

 こんなイベント知らない。

 姫巫女は殿下とは学園の裏庭で初めて出会ったはずだ。

 こんなの知らない。

 知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない、もうひとりになるのも苦しいとも、イヤッ……っーー。


「エスメラルダ、エスメラルダっ」


 …っ……で、んか……?

 ど、して……姫巫女のところ、行ったんじゃ…。


「ど、して…?」


「…大丈夫か?エスメラルダ。顔色が悪いな…気分が悪いのか。医者を…」


「!っ。い、いえ。平気ですっ」


「本当に、本当に、か?」


「は、はいっラガルハーネル様っ!」


「そうか…」


 そういうと、殿下はあからさまにホッとした顔をしたが、俯いていた私には気づくことができなかった。

 …そうだ。姫巫女。

 私はパタパタと姫巫女の元へ駆け寄る。


「大丈夫かしら?」


「…はい平気です」


「そう…お名前は?私はエスメラルダと言うのよ」


 これがデフォルメなら、神崎光かんざきひかり

 ヒカリ・カンザキ。


「私の名前、は…神崎…あ。……アカリ・カンザキって言います。公爵令嬢様」


「あら、エスメラルダで良いのよ?それから…私もアカリ様って呼んでも構わないかしら」


 アカリ、か。

 朱莉…明梨かしら。

 ……多分…灯里、ね。


「…エスメラルダ?出発するぞ」


「あ、はい。ラガルハーネル様」


「…ラガルハーネル様ぁ?」


 …え?

 今、アカリ様から変な声が聞こえたような…。

 気のせい。気のせいよね。

 だってヒロインがヤクザやおじさんなわけないもの…。


「え、えっと。アカリ様?」


「…!。はい。構いませんっ。え、エスメラルダ様…!」


「その制服。その、アカリ嬢と言ったか」


「はい」


「我々もその学園に入学するのだ。で、だな…流石に一等馬車は無理だが、後ろの、従者の乗っている二等馬車なら乗せてやれる。ちょうど、クラリーチェのところは空いているだろうしな。どうだ?乗るか?」


 …これは……。

 フラグ…?

 …この世界はゲームじゃないって決めたばっかりなのにまたゲームだのフラグだのイベントだの…。

 こんなたくさんあるから私の思考もそっちに飛んじゃうんじゃ…?


「あ、ありがとうございますっ。よ、よろしいのでしたら…」


「ああ、わかった。エスメラルダもそれで良いか?」


「ふふ、かまいませんわ。…クラリーチェ」


「かしこまりました」


 呼ばれて出てきて…ごほん。

 私に呼ばれて出てきたクラリーチェはサッと事情を読み取りアカリ様を自身の乗っている馬車へと移動させた。


「僕たちも戻るか」


「はい。…ラルダ」


 私は殿下が馬車に入って私が入るまでの短い間にラルダに告げた。


「アカリ様を見張ってきてちょうだい。できれば会話の録音も」


『ん、分かった〜』


 …そう言えば殿下はラルダが見えるはず…。

 きずいてないふりしているのかしら、それとも…。

 あとでそれとなくきいてみましょうか。


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