泉が枯れた原因
「遠いところを、よく来てくれた。 心から礼を言う」
座ったままで頭を下げるシーノ王に、シリウが尋ねた。
「さっきの穴が、問題の枯れた泉なのですか? 見たところ、一滴の水も無いようでしたが……」
シーノ王はため息をつき、話し始めた。
「何の前触れもなかった。 ある日突然、ひと時も途切れることなく湧き続けていた泉が枯れはじめたのだ。 徐々に水量が少なくなり、その日が終わる頃には四本の水路が賄いきれなくなった。 慌てて水路を半分にし、次に一本にして、やっとぎりぎり人々の生活を支えてきたが、一ヵ月後には、遂に一滴の水も出なくなってしまった。 やがて人々も希望を捨てて国を出ていった。 君たちも見てきたのだろう? すっかり寂れきった国の姿を……」
シーノ王はもはや、威厳の欠けらも無くしていた。 三人は堕ちた国の姿をまざまざと見せ付けられ、衝撃を受けていた。
「何故、泉が枯れてしまったのでしょう?」
シリウは冷静に考えようとしていた。 同情していては前に進めない。 ヤツハの状態も、一刻を争うのだ。
「枯れた原因は必ずあるはずなんです。 何か心当たりはありませんか? ほんの小さな事でもいいんです」
カイルも身を乗り出してシーノ王の顔を伺った。 シーノ王の言葉を待ちながら、サクもじっと見つめている。 シーノ王はうつむいたまま、深いため息をついた。 そして、ゆっくりと首を横に振ると
「何もわからんのだ……」
と力なくうなだれた。
突然サクが立ち上がり、広間を出て行こうとするので、シリウとカイルも慌てて立ち上がると彼を追った。
シーノ王はその背中をじっと見つめ
「セツナ、肩を貸してくれ」
と、自分もゆっくりと立ち上がり、セツナに支えられながら三人の後を追った。 サクは穴だらけの庭園に戻っていた。
「サク、一体何をする気ですか?」
シリウが落ち着かせるように静かに言うのを背に、サクは庭園の中央まで行くと、おもむろに両手を上段に構えた。
「サクっ?」
シリウとカイルが止める間もなく
「爆拳放火!」
という気合咆哮と共にその両拳が地面に叩きつけられた。
「サク!」
飛び散り襲ってくる爆風を腕で避けながら、シリウとカイルは立ち尽くしていた。
飛んできた土の塊が、シーノ王の頬にも当たり、赤く腫れた。 だが、彼は何も言わずにただ黙って庭に大きな穴が開くのを見つめていた。 傍で支えるセツナもまた、無表情で庭の土が舞い上がるのを見つめていた。
土煙が治まったのを見計らってサクの所に集まった面々は、ぽっかりと開いた穴を見下ろしていた。
「穴を掘っても水は出てこねえ。 だけど、この国の周りには、緑の葉っぱをたんまり抱えた森で囲まれてる。 それがどういう事か分かるか? ここにあった泉だけが枯れた。 人間が生きるために支えていた、必要な物だけが、人間の前から姿を消したんだ。 必ず何か原因があるはずだ!」
サクはシーノ王を睨んでいた。
その気迫にシリウとカイルは何も言えず、サクに睨まれたままのシーノ王は膝をついて、無言で穴を見つめていた。
「水が一滴もない今、ハミウカは使うことが出来ません。 これは、流れる水と共に浄化を広めるものですから」
シリウはうなだれるシーノ王に静かに言った。
静まり返った庭園に、穏やかな風が吹き、地面を覆う土を軽く巻き上げた。