第04話 大統領
"ある存在”についてマキナは知らなかった。
しかしマキナの目の前に立ち見事、弁舌だけで時間を稼いだ、
地獄のような瞳をした司教、
ペテロ司教は知っていた。
その存在が神であると、
一瞥だけで街をも滅ぼす、
圧倒的な脅威である彼の存在を、「魔王」をも凌ぐ存在だとペテロ司教は知っていたのだ
「私達は全てを見ていますよ、デウス・エクス・マキナ様」
忠告とも取れる言葉と共に拒絶するように門が閉じた。
マキナは駆逐艦の「残骸」の真下、
「夜の街」の中央区に足を踏み入れた、
ついに「計画」が始まるのだ。
奇妙な銀の装飾を首に掛け白い服に包まれたペテロ司教はしかし笑う。
地獄のような瞳で、
まるで崇拝する神を見つけた聖職者のように
□
「我々の目的は人類協定への応援要請です。
ナイ神父一派を見つけ、
「機械教会」を打倒する為に「政府」の目を盗んで
「銃の国家」に続くエレベーターを占領し、人類協定の協力を仰ぎましょう。」
ジョーリアの目的を示す毅然とした言葉の元、
「星の智慧」の跡地付近にある各省庁を目指しながらも、
「駆逐艦」の残骸の真下で、
情報を再び共有したマキナ達三人は、自身の持つ知識に従って足を進む。
またしてもナイ神父の「計画」通りに
「それにしても広いな、この街は。シャーロックの通行証が使えて良かった。」
「マキナと私の通行証は使えませんでしたもんね、
恐らくナイ神父の手によって私達二人が死亡扱いになっていて、
一般的な手続き通り大統領が登録を抹消したのでしょう。
何か「政府」に働きかけたとも考えられますね。
あの「星の智慧」焼き討ち事件に大統領が一枚噛んでいる可能性が高い故の自体だとは弁えているでしょう、マキナ」
「無論だ、あの会議に参加しなかった連中を唯一纏められるのはNO.1セクサロイドである私やナイ神父以外で大統領一人だからな」
そんな事を考えていればけれどマキナ達三人は来た。
「政府」の目の前、
「駆逐艦」の残骸の真下に、
偽物の空の下、「地下自治区」の中で唯一大型エレベーターに繋がる各省庁の玄関にマキナは来た。
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳、その白瞳が四度ガチャリと噛み合った
□
「政府」の各省庁の建物についてマキナは知っていた。
セクサロイド三人娘に三日間一般常識を教育する上でマキナ自身も多くの知識を学び取っていたのだ。
マキナが覚えている一般常識とこの世界についての知識にずれがあったが故の事態である。
それは「駆逐艦」の残骸その物を流用していたのだ。
大半が大破した部位をそれぞれ最新技術で補っている。
その建物はしかし、
しっかりと「政府」として機能していた。
大統領の政務を執り行い住む場所は最上階、「星見の場」であると言われている。
「そこに向かってるんだね、相棒。」
「ああ、そうだ。」
マキナは背中まである長髪を手櫛で整えながらそう返した。
当然だ、マキナ達二人の敵。
ナイ神父の共謀者であろう大統領の住む場所にあっさり通されていた。
直通のエレベーターに乗っていいと言われたのはマキナの言葉故である。
彼女はこう言った。「デウス・エクス・マキナとして大統領に話がある。」と
「機械教会」の崇めるデウス・エクス・マキナ様とやらそのものを騙ったのである。
ASM型人工知能として噂されていたマキナ自身の立場を利用したのである。
そして、玄関のスタッフ達が何やら密談をした後、
通話器越しに誰かの指示を仰ぎ、受け取った。
「通って下さい。大統領が面会を希望しています。」
そんな言葉と共にマキナ達三人は「政府」の窓口の先に通された。
今はエレベーターガールと思しき、
黒髪黒目の少女に連れられ三人でエレベーターに乗っているのである。
「まさか、マキナの言葉通り殆ど顔パスで何とか成るなんて、
ここの警備は相当手強いから覚悟してたんですけど」
「確かに、どう成るかは俺も賭けだった。
狂人の振りをするのも楽じゃ無いな。
おかげでこっちも気分が悪い、「機械教会」の司教のにやけ顔が浮かぶ。」
「あいつは今の君と違って滅多に笑わないと思うがな、
しかし、相棒これからはどうするつもりだ。
まさかこれから大統領を殺すとでも言うのか?」
「大統領を殺す必要は無い、俺達に必要なのは大型エレベーターの使用許可だ。」
手櫛で背中まである長髪を整えながけれどマキナは冷静に言った。
まるで黒髪黒目のエレベーターガールを気にしない、
機械のような冷徹な言葉にシャーロック達二人は目を細める。
ゼンマイのような白瞳が
カチリ、カチリと噛み合いながら動いていく。
そんな気まずい光景の中で「ハハハ。」と笑えばマキナは言った。
「ともかく、ナイ神父と「機械教会」の関係は俺は無いと考えている。
けれどシャーロック達二人は違うと考えているんだろう。
未だにあいつと司教がグルの可能性を考えている。
であれば疑問を無くす必要があるだろう。」
「大統領に直接聞くって事か、
まぁ確かに理には叶っているね、
この街の最高権力者である彼女に聞くのが先決だろう。」
「本当にそれで良いんですか、マキナは
あの事件を引き起こした大統領に引導を渡さなくても、」
「ああ、問題無い。
私は必ず彼女も殺す。
でもそれは今じゃ無いんだ」
「今じゃ無い。」と静かにマキナが言う。
背中まである長髪から手櫛を離す。
してシャーロック立場二人を見てけれどマキナは言った。
「私が取るのは「星の智慧」の皆の仇だ、
だからこそ、例え大統領だろうと利用できるものなら全て利用してやるさ」
堪え切れない慕情を瞳に湛えて、
濁り切った憎しみの混ざった笑みを浮かべて、けれどマキナは言った。
まるで機械のように
「108階に着きました、皆様御降り下さい。」
そうして、
直通エレベーターがチンという音共に
「星見の場」へと着いた事をエレベーターガールがマキナ達三人に知らせた。
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「どうぞ、こちらへ」
首席補佐官のそんな言葉と共にけれどマキナ立場三人は「星見の場」に通された。
黒髪黒目の美人でありながらエレベーターガールの振りをしていたという事をあっさり明かした、
ある種アグレッシブな彼女はしかし、事務的な言葉をマキナに吐く。
「大統領がお待ちです。
彼女は忙しい、公務に政務、
何から何まで手がギリギリの所で回している状況です。
どうか、大統領の御心を煩わさないで下さいね。」
「無論です、首席補佐官。」
「ああ、無論ですね。
所で聞きたい事があるのですが首席補佐官、貴方の性別は?」
相棒の出し抜けな質問にけれどマキナとジョーリアの二人は驚きに目を見開く。
当然だ、マキナ達二人からしてみれば首席補佐官の性別に疑問など挟む余地が無いように思えたのだ。
実際、それは正しい。
どう見ても首席補佐官の一纏めにした髪は女性の髪特有の艶やかさを帯びている。
うなじだって何か綺麗だし、
顔立ちだって美しい大人の女性そのものだ。
これが男である筈などマキナの常識からしてあり得なかった。
「そう、考えているのですね、
デウス・エクス・マキナ。
であれば答えましょう私の性別は・・・男です。」
「・・・やはりか」
「「・・・・・・」」
相棒の言葉にけれどマキナ達二人は答えない。
当たり前だ、驚きで固まってしまったのだ。
何も答えられる訳がなかった。
だからこそ、矢継ぎ早に質問が舞う。
「身長とBMIは、今日食べた朝ご飯は?」
「身長は175cm、
BMIは15.5です。
朝ご飯はトーストとベーコンエッグです。」
「君の誕生日と年齢、して親の年齢は?」
「私の誕生日は7月7日です。
年齢は29歳。
親の年齢は54歳ですね。」
「恋人はいるんですか?」
「生憎公務と政務に忙しく、久しく作れていません。」
マキナ、相棒、ジョーリアの順に質問されたのである。
歩きながら行われたそのデリカシーの欠片も無い質問と、その回答の数々もしかし終わりの時が訪れる。
重厚な扉が見えたのだ。
星見の場への扉であるとマキナ達三人全員が察した。
「デウス・エクス・マキナ御一行様、
「星見の場」へと着きました。」
そう止まって指し示した首席補佐官の言葉にマキナ達三人は示された扉を見つめる。
して扉が開かれればけれどマキナ達三人は見た。
白一色で統一された部屋をそのまま見た。
そしてその奥、椅子に腰掛け頬杖をした金髪青目の少女が居た。
黎明の空のような瞳を持つ、金髪青目の少女はけれど大統領として厳かにこう言った。
「さあ、始めようか、
デウス・エクス・マキナ。私達の死の会議を
ここ「星見の場」でな。」
そう不敵に笑って大統領、アリス・ムーンライトはそう言った。
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳を持つ、白髪白眼の少女、
マキナがけれどアリスを目に収めた。
黎明の空のような瞳を持つ、金髪青目の少女を目に収める
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳、その白瞳が五度ガチャリと噛み合った。
ナイ神父の「計画」が明確に動き出した瞬間だった。




