第05話 人類最強の女
「さあ、始めようか、
デウス・エクス・マキナ。私達の死の会議を
ここ「星見の場」でな。」
ただ不敵に笑って大統領、アリス・ムーンライトは言った。
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳を持つ、白髪白眼の少女、
マキナがけれどアリスを目に映す。
黎明の空のような瞳を持つ、金髪青目の少女を目にした。
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳、その白瞳が五度ガチャリと噛み合った。
ナイ神父の「計画」が明確に動き出した瞬間だった。
◻︎
ナイ神父の計画には五つの段階がある。
まず一段階目「喪失」、
デウス・エクス・マキナから記憶と力を含めた全てを失わせる。
して第二段階目「決意表明」
デウス・エクス・マキナに仲間達と仇討ちを決起させる。
そして第三段階目「邂逅」
デウス・エクス・マキナ達三人に仇討ちの折、各使徒と「残骸」を集めさせる。
第四階目「決着」
デウス・エクス・マキナの手によって仇であるナイ神父を殺させ、覚醒させる。
第五段階目「終末」
デウスのエクス・マキナの覚醒した力を用いて「魔王」の残党を全て滅ぼし、神を殲滅する。
これらの計画がある事をアリス・ムーンライト大統領はマキナ達三人に話した。
首席補佐官は部屋の中、大統領の隣である。
極秘と思わしきその情報をけれどどうしてか大統領はマキナ達三人に対して惜しげもなく話した。
まるで躊躇の無いそれはしかしある一言によって締め括られる。
「今回の「星の智慧」襲撃事件。
ここまでの事態になったのは奴らの本性を知っていながら制御出来なかった私の不徳だ。
凶行を成した者達は既に今朝全て処刑が完了している。
ナイ神父と機械教会の者達以外全て粛清が完了しているのだ。
後継者にも全て滞りなく引き継ぎが済んでいる。
私にも悔いは無い。」
「だから、アンタを殺せと言うのか。
自分だけ満足に逝こうって言うのか、
セクサロイド三人娘や逃げ遅れた全ての娼婦達は明日を見ることもなく望まない死を迎えて行ったのに
アンタだけ満足に死なせろって言うのか」
静かな声でマキナは言葉を並べ立てた。
目の前の存在、アリス・ムーンライトが大統領なのは知っている。
この事件の黒幕の一人であり、
そして人類最強の称号を持ち、
「魔王」の力を受け継ぐ13柱の一人である事も
「改造手術」、「魔王」の一部を取り込むというその手術唯一の成功例である事も
けれどだからこそ、マキナには理解出来ない。
どうして何もかも有耶無耶にして仕舞える力を持つのに目の前の大統領は逃げないのか、
どうして協力者であろうナイ神父の「計画」をマキナの前で話したのか、
何も分からないのだ
「そうだろうな、だからこそ答えよう。
デウス・エクス・マキナが世界を救ったと「機械教会」で信じられているのは知っているか」
「ああ、知っている。
曰く▇を使い、
剣を使い、盾を使い、
鎧を使い、銃を使い、毒を使い、
弓を使い、彼女は「魔王」達・と三日三晩戦った。
その末魔王軍を殆ど壊滅させ、世界に宣戦布告した「魔王」達を13柱殺した。
その残骸が地下自治区にある「駆逐艦」や、
「剣の国家」や「盾の国家」、「▇の国家」にある残骸なのだろう。
そう「機械教会」でも学校でも教わると、ここに来る前の三日間の内に理解している。
デウス・エクス・マキナ様と「使徒」が全てを成したのだと」
「ああ、そこまでは一般常識の範囲だ。
しかし、これには一つだけ隠された事実がある。」
その言葉にジョーリアは唾を飲み込んだ。
驚きなのだ、
一般常識に等しいマキナが説明した事柄にけれど新しい事実が有るなどと大統領が話したのが。
けれど相棒はパイプに煙を吹かせながら同じような態度を取るマキナの様子を気にせずただ横に立ち、
マキナは腕を組んで大統領とその横に侍るように立つ首席補佐官の二人を見据えた。
ジョーリアは近くにあった椅子に腰掛ける。
聞く体制になったのだ。
「あの残骸、
剣の残骸も、盾の残骸も、▇の残骸も何もかも全てマキナの武装で有ったのだ。
機械仕掛けの神本人と使徒達の武装という訳ではなくな。」
「「・・・・・」」
「・・・成程。」
マキナはけれど重苦しい沈黙の中そう納得の言葉を漏らした。
マキナは理解したのだ、
目の前の大統領が真実を口にしている事を
そしてこれまで語られてきた歴史に嘘があった事を
相棒とジョーリアの沈黙こそがその証である。
二人は純粋に驚いていたのだ
自身の知る歴史に「デウス・エクス・マキナ」が想像以上に食い込んでいた事に、
して自分達が偽りの空の下で偽りの歴史を教えられて来た事に、
まるで自分達が歴史を知らない故の驚きに目を見開いていたのだ。
「驚くのも、無理はない。
これは「地下自治区」の市井には知られていない。
ナイ神父や、
「機械教会」の司教、
そして私と首席補佐官しか知っていない事実だ。
この世界を救ったのは「デウス・エクス・マキナ」
ただ一人であったなどと今の使徒達が公表出来る訳が無いのだから」
「それだと使徒は何をしたって言うんだ、
今の所その子達はただの役立たずのように思えるが」
マキナが直裁にそう言った。
その明け透けな物言いにけれど大統領はこう返した。
まるでマキナの目を見て言葉にしたのだ。
「君の補佐だろう。
丁度、首席補佐官の仕事のような物だろう。
スケジュールの調整から、体調管理。
身の回りの世話から「魔物」や「魔人」、「魔王」の討伐など雑事から大事まで何でもござれだったのだろう。
そう「機械教会」の司教やナイ神父などは考えているようだ。」
「一つ、質問を。
「魔王」は本当に13柱しかいないのかね。
「政府」が教えた歴史が全て事実と限らない今、君に市井を代表して聞かなければならない。」
「今の所は13柱しか見つかっていないという状況でしか無い。
また新しい「魔物」や「魔人」、「魔王」などが沸くかも知れない・・君はそう言いたいのだな。」
「その通りだ、
我々「政府」ですら全ての「魔王」を観測出来ていない。
こんな「星見の場」なんて物を作ったのに情けない話だがね。」
大統領は事も無げにマキナ立ち三人に言った。
その言葉にシャーロックはパイプを吹かしながら顎に手を当て考え込み、
マキナは背中まである髪を手櫛で整え始めた。
そしてジョーリアはただ驚きに目を見開いていた。
それぞれが、それぞれのリアクションを取った証である。
それを見透かしたのか、首席補佐官と大統領は交互にこう言った。
「だからこそ、私達から提案が有ります。」
「どうか、大統領の命を断ち、
「魔王」の力を取り込んでくれ。
さすれば「デウス・エクス・マキナ」貴方の力は回復の道を辛うじて辿るだろう。」
ただ決意を込めて首席補佐官はこう言った。
アリス・ムーンライト大統領を殺し、
マキナの力を復活させる道筋を照らしたので有る。
そんな晴々しい事態にけれどマキナは手櫛を止め、
ただ一言、
「巫山戯るな。」と機械的にただ言った。
◾️
マキナは機械である。
自律型自己改造人工知能、ASM型人工知能と呼ばれる彼女はしかし圧倒的な力を持っていた。
記憶の全てと殆どの力を失ったマキナではあるが、
けれど目の前の大統領と首席補佐官を殺し、
地下自治区を地獄に陥れるだけの力を有していた。
機械三原則により、人間には危害を加えられない物のそれ程の絶対的な力を未だマキナは持っていたのだ。
けれど、そんな絶望的な戦力差を気にせず、人類最強の女。アリス・ムーンライトは言葉にした。
「どうか、大統領の命を断ち、
「魔王」の力を取り込んでくれ。
さすれば「デウス・エクス・マキナ」貴方の力は回復の道を辛うじて辿るだろう。」
「巫山戯るな。」
とそんな機械的な言葉と共に白一色で統一された部屋。
その窓ガラスがパリンと音を立てて割れる。
マキナの怒りに周囲の物質が耐えられなかったのだ。
窓ガラスはマキナの瞳を映しながら舞い落ちる、
まるでマキナの怒りを示すように
「何か、不満はあるか。
デウス・エクス・マキナ。
貴方は私の命を絶ちたがっていたいた筈だが、
それともそれすら欺瞞か?」
「巫山戯るなと言っているんだ、
アリス・ムーンライト大統領。
私がそれを望まない事、理解している筈だろう。
それともやはり血なのか、
ムーンライトの血が一万一千年以上経った今も人間の足を引っ張っているとでも言うのか。
・・・いいや、血だな。
血のせいだ。ただの人間がこんなに愚かな判断を下せる筈もない。
ムーンライト家の血筋など当てには成らないな。
やはりアリアでは駄目だったか、ベルとチルタリアに血を絶やさせていれば良かったんだ。」
「何を言っている、相棒。落ち着け」
思わず相棒がマキナの肩を揺すって静止を促す。
「機械三原則第一条に乗っ取ってお前を排除する。」
そうマキナは言葉にした。
パイプを片手にもってのその静止は
けれどマキナの目をシャーロック達二人に見せるに至った。
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳を持つ、白髪赤眼の少女がけれど笑っていたのだ。赤い目で、
まるで機械仕掛けの神のように
そうしてマキナは手の平を大統領の前に掲げてこう言った。
「███」
「delete」とそんな言葉を幻視する。
黒いブロックノイズが白一色で統一された部屋を呑み込めば、
瞬時、首席補佐官が大統領を庇うと共に
大統領が机に立てかけてあった剣を抜けば、
マキナの掌から放たれた黒い光によって「星見の場」が土煙と共に吹っ飛んだ。
機械仕掛けの神のような笑みを浮かべたマキナによる
人類最強の女への宣戦布告だった。
□
人類最強の女、
アリスムーンライト大統領がそう言われているのには理由がある。
「デウス・エクス・マキナ」と同一視される使徒A、
アリア・ムーンライトの名を継承する彼女は同じく同格の六大使徒からも認められている存在だった。
ここで振り返らなければいけない情報がある。
まずは信徒という存在について、
「信徒」
手術を受けた元人間の総称であり
莫大な力と意思のままに願いを叶える力を持つ
上流階級に多い種族である
「使徒」
ASM型人工知能が自己複製をした折り生まれた複製個体であり、
機械でありながら純然たる肉体を持つ。
分類としてはアンドロイドなので機械扱いされている「国家」の統治者やその補佐官などに多い。
「デウス・エクス・マキナ」
機械仕掛けの神であり、ASM型人工知能のオリジナルにあたる。
各国家にある「残骸」はこのAIの武器であると言われている
「魔王」を倒した人工知能として人々に知られ、
「▇の国家」では「勇者」の頭領の一人として崇められている。
これらの長ったらしい情報についてけれど今のマキナは知っていた。
知っている上で機械仕掛けの神のように笑い、
攻撃をしたのだ。
「ゴホ、ゴホッ、ゴホ」
「相棒、正気なのか。」
肩に手を置いて静止を促していた相棒の声がマキナの耳に聞こえた。
今のシャーロックは肩に手を置いていない。
むしろだらりと下げられた腕の先には不安を押し殺すように硬くぎゅっと握り拳が作られている。
けれど今のマキナには興味が無い。
ただジョーリアの咳すら気にせずに目の前を見つめるだけである。
煙が晴れればそこにはあった。
穴の開いた星海を宿す鞘から一部抜かれた、
虚無を写すような剣を以て自身の身を守っていた。
部下である首席補佐官の手を引いて自身の体を盾にした、アリア・ムーンライト大統領の姿があったのだ。
彼女のスーツは不意打ちを喰らったにも関わらずシワ一つなく。
けれど彼女の顔には攻撃したマキナへの怒りの表情が刻んであった。
「いきなり、攻撃するとは物騒だな。デウス・エクス・マキナ」
「・・・・・・」
「沈黙を選ぶか、愚かな事だ。
機械三原則に抵触した以上お前の電池は既に切れた筈。
この仕組みばかりは仕組んだお前の娘である「使徒」に感謝しなければ行けないだろう。」
大統領は静かにそう言った。
実際、大統領の言葉は正しい。
平次であれば機械三原則第一条、
「機械は人間に危害を加えては成らない。」に抵触している為、強制的に電源が落ちる。
だがマキナは機械三原則に反する者を断罪するという形で攻撃をした
これが成立する意味はただ一つ。
機械三原則を用いた、
機械三原則の執行阻止である。
つまりは機械三原則第一条に反する者を断罪する名目で、マキナはその法則で守られるべき「人間」を攻撃したのだ。
それをけれど理解し相棒は言葉を紡ぐ。
「「機械三原則第一条に乗っ取ってお前を排除する。」と相棒は君を攻撃する前言っていた。
これはつまり相棒自身が機械三原則に違反した対象を始末する名目で動いているという事に他ならない。
端的に言えば今の相棒は人を殺しにかかろうと電源は落ちる事は無い。暴走状態・・なんだろう」
「成程な、そう言う事か。首席補佐官理解出来たか?」
「ええ、理解出来ました大統領。
今の彼女は彼女では無いようです。
怒りに呑まれデウス・エクス・マキナとしての本来の機能と記憶に取り込まれたのでしょう。」
首席補佐官は冷静にそう言う。
目の前の存在、
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳を持つ、白髪赤眼の少女、その姿をしたマキナが、
デウス・エクス・マキナとしての一時的に変質していることを見抜いたのだ。
大統領はその事にけれど理解する。
目の前のデウス・エクス・マキナと化したマキナを倒さなければ二人には未来が無い事を
自身達の思惑が頓挫し、
目の前の探偵とNo.2娼婦の未来すら、
マキナという暴走した機械によって終わらせられる事を大統領は理解した。
「下がっていろ、皆。こいつは私の相手だ。」
そう黎明の空のような瞳を持つ、金髪青目の少女、
アリス・ムーンライト大統領が厳かに言う。
穴の開いた星海を宿す鞘から一部抜かれた、
虚無を写すような剣を完全に抜き放ち鞘を腰に掛ける。
けれど瞬時、
微かな土煙と共にアリスが消えれば・・
土煙と共に完全に抜き放たれた剣によって、
デウス・エクス・マキナが「星見の場」から偽物の空の下、夜の街へと吹き飛ばされた。
◾️
ムーンライト家というのは使徒AとZの二人の手によって作られた財閥である。
始まりであり、終わりである二人の性をとって作られたムーンライト家は、
世界を裏から牛耳ると言われる七大財閥の一つとしての側面があった。
その長である当主は「魔王」、13柱の内の一体を継承する伝統があるのだ。
その魔王の名は「アザートース」。
全ての元凶にして頂点に君臨する存在と言われている。
盲目にして白痴の神だ。
アザトースはその性質上、
神としての側面も持つ全知全能に最も近しい存在である。
使徒Aにして初代ムーンライト家当主、
アリア・ムーンライトに討伐された彼の存在を歴代当主は継承してきたのだ。
アリス・ムーンライトは次期当主では無かった。
むしろ資格持たぬ者として迫害の日々を過ごしてきたのだ。けれどアリスは選ばれた。
鏡の試練というアザトースの器を選定する「剪定の儀」の一種に最後まで残ったのである。
そう、眠っていた圧倒的な素質によって。
アリスはアザトースを継承し、
「改造手術」の唯一の成功例として「魔王」の記憶と力を継承した。
そうして艱難辛苦の日々を送りとある戦役で"人類最強"の称号を得て、「地下自治区」の大統領となり今に至る。
「やはり、硬いな。
デウス・エクス・マキナか
・・素晴らしい力だ。」
そうして虚無を写すような剣を握りしめつつ、
パンツスタイルのスーツ姿で煙と対峙するアリスである。してそれを見守っている探偵とNo.2娼婦の無事を見て、首席補佐官の無事を確認していれば煙が晴れた。
「▇▇▇▇▇▇▇▇」
「何かしましたか。」と平静を語る言葉を幻視するようにマキナはアリスに対して言った。
機械仕掛けのようなゼンマイの瞳を持つ、白髪赤眼の少女。
ノースリーブのワンピースに袖を通した儚げな白い少女の姿がそこにあったのだ。
ただその瞳は怒りを示すような赤色に染まっている。
暴走していると一眼で分かるような圧倒的な気配があった。
「白い髪に赤い瞳、白い衣裳か。まるで「天使」のようだな。」
そう静かにアリスは言葉にする。
かつてこの世界に存在した"ある存在"に近しい見た目を期せずしてマキナがしていたのだ。
精神の存在である天使に近しい見た目を、
機械であるマキナが取っているその状態にけれど興味深さを覚えたのだ。
しかし、土煙と共に「星見の場」からアリスが姿を消す。
翔る、翔る、翔る。
黎明の空のような瞳を持つ、金髪青目の少女が、
空をただ翔けて行く。
そうして加速し切ったその瞬間、
マキナ目掛けて虚無を写すような剣を払えば、
衝撃波と土煙と共に・・
マキナの腕が機械とは思えない程、人間らしい赤い液体を散らして飛んだ。




