第03話 機械教会
機械教会という組織は司教が率いる組織である。
司教をトップとしたこの組織は機械仕掛けの神、デウス・エクス・マキナを信仰する。
人類歴1013年から実在すると言われるこの組織は宗教上マキナのみを信仰対象としていた。
だからこそ、マキナと同型のASM型人工知能であると言う「使徒」をマキナに作り出された存在として認めていなかった。
国家を統べる彼女達「使徒」を「機械教会」は神聖視していないのだ、
だからこそ、彼女達は何度も「国家」に弾圧され、
「使徒」の手に掛かりながらも存続の危機に晒されてきた。
しかし彼らは諦めず何度も立ち上がる。
そう「全てをデウス・エクス・マキナ様の御許に」という言葉の元で
だからこそ、「駆逐艦」の残骸の真下、
「夜の街」の中央区の門前に付いた時、マキナは出会った。
「機械教会」の司教と
□
「お久しぶりです、デウス・エクス・マキナ様。」
そんな声がマキナ達三人の耳に入った。
敬虔な信徒のような声がマキナの耳に入ったのだ。
朧気な自身の名前の由来からゆらりとマキナはその声の主を見た。
奇妙な銀の装飾を首に掛け白い服に包まれ、白い髭を蓄えた白髪の細身の老人がそこに居た。
その落ち窪んで光も見えなくなったような目をマキナに向け、姿勢良く門の前をその身で塞ぎながら司教は行き交う人々を気にせずこう言った。
「お待ちしておりました。
貴方様がセクサロイドに身を落としたと聞いた時は肝が冷える思いでしたが、
しかし本来の目的を思いだして下さったようで何よりです。」
「何を言ってるんだ、君は。
というかその服装「機械教会」の者か、それもその銀の装飾、君は司教なのか。」
「ええ、その通りですよ名探偵殿。会話が早くて助かります。」
二人のやり取りに冷や汗をかくジョーリアである。
機械教会とは世界有数の宗教にして有名なテロ組織そのもの、
教義上の理由で反体制派に与する彼らはその代表格とも言える程強大な組織であった。
国家に属さない彼らは基本的に土地を持たない。
各「国家」に点在する「教会」を拠点とし影響力を一万年以上強めてきた彼ら、
その信者の人数は全体人工の三割強にも到達する程の人数と成っていた。
学校の子供三人に一人が機械教会の信者なのである。
その影響力と勢力の膨大さ故に「国家」の苦労は計り知れないものと成っていた。
行き交う人々が見向きもしないのはきっと司教の持つ最新技術とやらだろう、自身の存在を周囲から隠匿しつつ、マキナ達三人に話しかけてきたのだ。
「マキナ様は理解していらっしゃるようだ。
さすがデウス・エクス・マキナ、機械仕掛けの神で在らせられる。
貴方様がこの世界の真実を知るのも時間の問題でしょう。」
「俺達には時間が無いんだ。通してくれるか、司教。」
マキナの喉から想定より低い声が漏れる。
当然だ、マキナは宗教に疎くない
もしナイ神父が機械教会に属する物であればマキナの仇打ちには目の前の存在。
「機械教会」の司教の死とて含まれるのだ。
今のマキナは殆ど力は失っている物のナイ神父を殴ろうとした時とは違い機械三原則の違反のタイミングを理解している。
だからこそ目の前の男の首を手刀で飛ばす事など容易であった筈だった。
しかしそれを気にもせずマキナは目の前の男を見る。
奇妙な銀の装飾を首に掛け白い服に包まれ、髭を蓄えた細身の老人・・そう称するに相応しい老躯がそこに居た。
けれどその白髪と長い白眉毛をも気にさせない、
落ち窪んで光も見えなくなったような目にしかしマキナは怪訝気に目を細める。
まるで地獄そのもののような瞳にマキナは息を呑んだのだ
全知全能の存在ではマキナは無い。
かつてそうであったかも知れないそのデウス・エクス・マキナとしての圧倒的な力を、しかし今のマキナは持ち合わせていないのだ。
けれどだからこそ、マキナは言えた。
目の前の老人この存在は間違いなく「化物」であると
「ほほほっ、大げさですよ。マキナ様。
貴方様を凌ぐ存在はこの世にはおりません。
今は記憶の全てと力の殆どを失っているようですが、何れそれも治りましょう。」
「なら、アンタはそんな俺に何か用があるのか。それとも仇打ちの一環として私に殺されたいのか」
「無論、犠牲の救い主であらせられる御身にこの身を終わらせられるのも大変一興ですが、私にも目的があります。」
そう言えば地獄のような瞳をした老人は首に掛けた銀の装飾を指さした後こう言った。
まるで天国を謳う司祭のように、
まるで死を乞う乞食のように、
まるで救済を成す救世主のように、
地獄のような瞳をマキナに向けて、手の平を掲げて衆目を気にもせずにこう言った。
「私共は全ての「使徒」を消し去り、全ての「残骸」を集めて力を御身に返します。
「全てをデウス・エクス・マキナ様の御許に」」
そう地獄のような瞳で厳かな声で言った。
□
司教の言葉にけれどマキナは眉を顰める。
マキナにとってはナイ神父こそが皆の仇である。
その神父が属するであろう目の前の「機械教会」についてもよく思っていなかった。
だからこそ、最初は司教を殺そうと考えていたし、実際殺す気だった。
けれどマキナは足を止める。
殺す為ではない、目の前の存在を無視する事に決めたのだ。
話の通じない狂人、
それこそが目の前の地獄のような瞳をした司教へのマキナの評価である。
その厳然たる事実を元にした評価にしかし司教は怒らなかった。
けれどまるで周囲の行き交う人々を気にせず、
シャーロックが名探偵のようにパイプを吹かしながらうーんと唸った後、好奇心故か相棒であるマキナについて一つの質問をした。
「君は使徒と「残骸」がマキナの記憶の全てと力の殆どを失った原因として見ているのだな。」
「その通りです、名探偵殿。
教義的にも歴史的にもそれが事実だと私共「機械教会」の間で考えられています。」
「君の目的は。」
「先程言ったでしょう。
「使徒」を全て殺し、「残骸」を全て集めてその力をマキナ様に返す事です。」
何処か会話に成っていないそんな気がした。
会話自体は成り立っているけれどこか噛み合っていないのだ
ニュアンスとも言うべき物が完全にちぐはぐの形で言葉をやり取りしているのである、
これでは機械と人間の会話である。
・・もっとも機械は司教で人間は相棒の方だ
「使徒を殺し、
その上「残骸」を集める・・
それがどれだけの難易度か君は理解しているのかね。」
「ええ、だからこそ、私共は挑む価値がある物と考えています。」
この言葉のやり取りとてそうである。
お互いが、お互いを図るように話し合っている。
まるで終わらない化かし合い、
それこそが目の前の二人が繰り広げる「会話」その物だった。
人間はこんな一面もあるのかと考えながらけれどマキナは語らない。
むしろ唇を硬く引き結び、眉を顰め、司教を見つめる。
そんな様子を見てジョーリアは言葉を紡ぐ。
「貴方達は一体何の目的で私達に接触してきたのですか、
さっきの質問の答えと今ここに居る理由がいまいち繋がらないのですが、
まさか何か良からぬ考えでも」
「ええ、そうでした。
私は「政府」から時間稼ぎを仰せつかっていたのでした。
それももう済んだようだ、
皆様最後に質問はありますか。」
そんな言葉にマキナは足を進めた。
「政府」の要望で時間稼ぎをしていたという言葉は聞こえている。
自身達が嵌められた事も理解しているマキナである。
けれどそれを気にせず行き交う人混みの中で目の前の司教を超え、門の扉を開くと決めたのだ。
けれど司教は微動だにしない。
その見た目に反する姿勢の良さを発揮しながらも長い髭を撫で静観する姿勢である。
そして通り過ぎるマキナ達三人を見てこう言った。
司教とナイ神父は関係が無いと判断したマキナを見てこう言った
「私達は全てを見ていますよ、デウス・エクス・マキナ様」
そんな言葉と共に門が閉じた。
まるでマキナの拒絶を示すように、
そうしてマキナは駆逐艦の「残骸」の真下、「夜の街」の中央区に足を踏み入れた。
□
「夜の街」の中央区は娼館が立ち並んでいる。
焼失した「星の智慧」を中心としたその立地はまさしくかつての幕府のようにとぐろを巻いて広がっていいたのだ。
地上に進むための大型エレベーターの一つを中心に建設されたこの街は、
しかし今の形になるまでおよそ100年の時を要した「残骸の街」、
その心臓部たるここは「地下自治区」でありながらも地上の街にも負けない賑わいを見せていた。
マキナの容貌については問題ではない。
彼女を真似て体を機械化し肉体を「信徒」の物と化す「手術」を受ける者や
整形をして彼女の貌に少しでも近づけようとする者など大勢いるのだ。
クオリティの高さも折り紙付きである為、マキナに似た者は以外と多かった。
600EXで売られていたマキナと同じ見た目をしたセクサロイド三人娘も似たような出自である。
術者の差によるクオリティの差はあれどそれぞれが、
それぞれマキナというNO.1セクサロイドに近づこうとしているのが現実であった。
マキナは夜の街での実質的なNO.1セクサロイドだ、
彼女の容姿に成りたいと考える者が多く居るのは仕方がない
「けれど、流石というべきかそういう人間は以外と少ないね。」
「ああ、セクサロイドの話か。確かに君の面影がある者は多いが各々個性がある。」
「真似しているだけではマキナを超えられないと理解しているのでしょう、流石にプロですからね」
ジョーリアの言葉にマキナは「うんうん」と頷く。
当然だ、人は贋作では無く真作に惹かれるもの、
いくらマキナを真似てもマキナ本人の魅力に勝てないと見るや、方針転換し個性を出そうとするのは当然の事だ。
そう感じながらもマキナは手に入れた情報を振り返る。
人類協定
西暦11012年現在まで世界を支配する組織、
”ある存在”の介入によりそれを解決する力を持つデウス・エクス・マキナを探しているらしい
「手術」
人類協定が生み出した技術であり「使徒」の一部を移植し人体を半機械化する技術。
莫大な力と意思のままに願いを叶える力を与える。
手術を受けた彼らは「信徒」と呼ばれ「国家」の中でも上流階級に多い元人間である
「改造」
人類協定が禁止した手術であり「魔物」という魔王の眷属の一部を植え付け、
半ば強制的にヒトを超えさせる技術。
自我は9割9分喪失するが一パーセント未満の確率で自我を持った魔物「魔人」と成れる。
「改造手術」
人類協定が大地の奥深くに封印した「魔王」の一部を取り込み、
強制的に魔人となる為の技術。
殆どの場合死ぬが、極稀れに魔人も魔物も超えた存在、「魔王」その物に成れる。
・・・などなど人類を統べる組織や人類の間での「手術」の種類に目を向けた形である。
「我ながら、情報量が多いな。けれどそれも仕方ない。」
「これを聞いて私達の目的地は決まったな。」
「そう見たいですね。「政府」の次の目的地「銃の国家」のその先が決まりました!」
そうジョーリアが言えばけれどマキナとシャーロックは足を進める。
自分達の次の場所に理解が及んだのだ。
そう、それは他ならない・・・
「我々の目的は人類協定への応援要請です。
ナイ神父一派を見つけ、
「機械教会」を打倒する為に「政府」の目を盗んで
「銃の国家」に続くエレベーターを占領し、人類協定の協力を仰ぎましょう。」
「夜の街」の中央区、
「星の智慧」の跡地付近にある「政府」の各省庁を目指しながらも、
「駆逐艦」の残骸の真下で、
新しい情報を再び共有した彼女達は、自身の知識に従って歩み出す。
そうまたしてもナイ神父の「計画」通りに




