48:ストンブリッジイベントの結末
俺たちは扉の先にある部屋へと入った。いくつかの部屋が連なったような場所だ。住居のようにも集会場のようにも見える。
その中、奥の一室で俺は椅子に縛り付けられた少年を発見した。間違いない。俺が知るポデルそのままだ。
ポデルは貴重な回復職として教団が確保した人間だ。
洗脳して手駒とし、教団員を守る戦力にしようとしたらしい。……というのがゲームで語られている。
「とりあえず縄を外して、エリザ、頼めるか?」
「はい。<オールキュア><グレイトヒール>」
現状のポデルがどういう状態か分からない。状態異常がかかっているのか、回復で治るのか、全く分からない。
それでもエリザにはスキル(魔法)を使ってもらった。治らなかったらエリクサーの出番かと内心思いつつ。
「うぅん……ここは……?」
どうやら淡い希望は叶ったらしい。ポデルはゆっくりと目を開け、辺りを見回している。
拉致されたとは思うのだが、今の場所や状況が何も分かっていないのだろう。
俺はポデルに説明をする。ここはディアボロ教団という魔族が支配する邪教で、ポデルはそいつらに捕まったんだよと。
「そうなんですか……なんで邪教が僕のことを……」
「意図は分からん。俺たちはカーマインという冒険者にお前を助けるよう頼まれたんだ。俺たちのパーティーには回復職がいたからな」
「カーマインさん、ですか?」
「おそらくここの教団支部を殲滅したのもカーマインだろう。俺たちが入ってきた時にはもうお前以外誰もいなかったからな」
「魔族を斃したってことですか……! そんなすごい人が……!」
例によってカーマインを推しておいた。
遺体やら何やらは領主か衛兵に渡すつもりなのでおそらく大騒ぎになるだろうし、それと合わせてポデルが証言すればカーマイン株が一気に上がるかもしれない。
カーマインの名声は上げておいて損はない。それによって強力なユニークキャラがカーマインパーティーに入るかもしれないからな。最終決戦も楽になる。
ポデルは俺たちに礼を言って帰っていった。俺たちが「夜も遅いし宿に戻れ」って言ったんだけどな。
ゲームと違って俺たちの仲間になるとか言い出さないで良かったよ。
これでエルザに続いてポデルまで仲間にしたら、カーマイン陣営の回復職がほとんどいなくなる。
ポデルを帰してからは六人で支部の中を色々と調べ上げた。
アイテムとして回収できたのは『ディアボロの闇印』という大きめのピンバッヂのようなものだけ。
あとは雑貨や家具などいつもどおりだ。悪魔像も一応回収しておいた。
調べた中にわずかではあるが手紙や書類のようなものもあった。
折りたたまれた手紙の形状を見るに、どうやら伝書鳩のようなものを使って情報のやりとりを行っているらしい。まぁ鳥なのか魔物なのかは分からないが。
俺としては通信系の魔道具を期待していたのだが、そんな都合の良いものはなかったようだ。
「それでこれらはどうするのだ?」
「もちろん領主か衛兵に渡すさ。リッツエルデ王国全体で危惧して欲しいしな。だから明日の朝にでもまた手紙を書いて欲しいんだ。ネフィリア、頼めるか?」
「承知しました」
昼間に領主館か衛兵宿舎に忍び込む形になるけどまぁそれは仕方ないだろう。
さすがに今夜これから手紙を書いて配達に行くというのはちょっとな。ネフィリアにも申し訳ない。
今日のところは帰って寝よう。
◆
【AG】のメインストーリー中盤の立ち回りは重要だ。
最終決戦に向けて各国を巡り、色々とイベントを熟していく必要がある。
冒険者ルートでは仲間を集め、装備や職業を揃え、魔王軍と戦える戦力を整えなければいけない。
商人ルートや貴族ルートなどでも各国のイベントは熟したほうがいい。
どの国でも魔族に関連するイベントは起きるし、それによって国は危機感を覚え、最終決戦が近いと知り、国同士で連携をとり、聖王国へと戦力を集める。
主人公が聖王国に行かない一般人ルートの場合は、その近辺に援軍も来る。そういった国をまたいだ戦力の確保を行う意味でも中盤の立ち回りが重要だと言うことだ。
俺は全ての国で魔族関連のイベントを熟せるのか。おそらく難しいだろう。
最終決戦の時期が読めない以上、なるべく早く強くなって聖王国へ向かう必要がある。
ゲームならば時間を気にせず各国を巡り、好きなだけイベントを熟せたが、現実世界の今となっては俺の動向と無関係にストーリーが進むようだし、そうなるともう時間軸を予測することさえ難しいのだ。
だから各国のイベント全てを熟せるとは思わないし、六魔将全員を斃して、最も弱い状態のラスボス戦というのは無理だろうとある程度諦めている。
となれば六魔将の誰を斃して、誰を残すか。どの国を優先に行くべきか。それを考えるわけだ。
必然的に第一候補は【魔嵐公アシュトルーデ】になるだろう。
強さという意味では六魔将で一番弱い。まぁ俺はそんな相手に傷をつけるだけで精一杯だったわけだが、序盤の主人公が戦える相手じゃないんだよ。地下水路で出てくるということ自体が理不尽すぎる。
本来、中盤で各国のイベントを熟した上で戦う相手だからな。死なずにすんだだけで幸運というものだろう。
話を戻すが、アシュトルーデと中盤で戦わないということはリッツエルデ王国のイベントを無視するということだ。
だから王都にはいかないし、魔法学院イベントもディアボロ教団イベントも熟すつもりはない。
とは言え、各国に危機感を持ってもらわないと魔族が南下してきた時の備えができない。
戦力を聖王国に集めるような動きをとってもらわないと、最悪の場合、俺たちだけで魔王軍と対峙することになってしまう。
そんなのは無理だ。だから各国の戦力もそうだし、何よりカーマイン陣営には出張って来てもらわないと困る。
ゲームの冒険者ルートにおける中盤の立ち回りとは大きく異なるだろう。王道ルートにはほど遠い。
しかし最終決戦を可能な限り有利な状態で迎えるためには必要なことだと考えている。
もっともそれは俺の予想や希望も踏まえた行動になってしまうので上手くいくかは分からないのだが。それでも何も考えずにゲームをなぞるだけよりよほどマシだろう。
リッツエルデ王国の魔族関連イベントに俺が手を出すことはおそらくない。
しかし魔族への危機意識は持ってもらいたい。
だから俺は【ストンブリッジ】で【恋人の様子がおかしいの】というサブクエを熟したのだ。特に得られるものもないのに。
ディアボロ教団支部への襲撃を終えた翌朝、俺はネフィリアに二通の手紙を書いてもらった。
そこにはディアボロ教団がどういった組織か、誰が操られているか、何を起こそうとしていたのか、そしてアシュトルーデの存在に関してもかなり詳しく書いてある。あくまで【奔渦のドズルガンデ】から聞き出したという体で。
もともと【ストンブリッジ】滞在六日目となる今日は街中のサブクエ依頼人を巡って魔物素材の納品依頼を渡して回ろうと思っていた。
そのついでに衛兵宿舎に忍び込み、ドズルカンデや教団員の遺体と手紙も一緒に置いて来ようというわけだ。
さすがに日中の領主館に忍び込むのは難しいんじゃないかと。衛兵宿舎ならまだマシかということだな。
そういった作戦を立て、俺たちは行動を開始した。
サブクエの報酬は特にこれといったものはない。それでも冒険者ギルドで買い取りに出すより報酬は高いし、何より「今できるサブクエは全て熟せた」という充実感を得るためにやっているようなものだ。やりこみ勢の悲しい性だな。
街中を散策しつつ依頼人に納品し、ついでに衛兵宿舎へと侵入した。もちろん<ハイド>全開だ。
遺体と教団支部にあった書類関係、それに手紙を添えて、見つかりやすい場所に置いてきた。
おそらくもう少ししたら大騒ぎになるだろう。あとはもう領主や国に任せる。
その足で俺たちはとある道具屋へと向かう。今までは入ろうともしなかった店だ。
淡い希望を持ちつつ店の中を覗くと……いた!
目当ての人物が店内の商品を観察するようにじっくり見ていた。
濃紺のローブを纏った若い男性。
この道具屋でランダムに出会うことができる準ユニークキャラ――ザクレイだ。
「あれ? そのローブはもしかして魔法学院の生徒さんですか?」
「えっ、ああ、そうですけど……」
「ちょうど良かった。一つ頼み事をしたいのですが」
「僕にですか? なんでしょう」
「この手紙をフォーレル学院長にお渡しして欲しいんです」
そう言って俺は手紙をザクレイに渡す。もちろんネフィリアに書いてもらった手紙だ。
一通はドズルガンデの遺体と一緒に、もう一通はザクレイに渡すつもりで書いてもらったのだ。
「カーマインという冒険者に頼まれたのです。中身は分かりませんが、王都の魔法学院に行くことがあれば渡して欲しいと」
「しかし僕は一学生ですし学院長にお会いできるか分からないのですが……」
「ならば教員の方にでも頼んでもらえればいいかと。見ず知らずの自分が学院に行くよりも確実でしょうし、何より自分たちは王都に行けるか分からないのです。ですからお願いできないかと」
「そうですか……では一応お預かりしておきます」
よし。これでフォーレル学院長にも魔族の動きを伝えることができる。
まぁ主人公パーティーに入らなかったザクレイがいつ学院に戻るのかは分からないが、保険としては十分だ。
おそらく【ストンブリッジ】の領主から王都へと情報はいくだろう。
それと並行してフォーレル学院長にも情報が伝われば信憑性は増すし、魔族への警戒度も上がるだろう。
なにせ学院にもディアボロ教団の手は伸びているからな。
領主から伝わる情報で国がどう動くかは分からないが、学院は学院で動いてもらったほうが確実だ。
俺が直接イベントを熟すようなことはしないが、国が動いてディアボロ教団を殲滅してくれたらそれでいい。
カーマインの名前を出したのは「あわよくば」だな。
ザクレイが興味を示してもいいし、学院から国に情報が伝わればカーマインの名声も上がるだろう。
ポデルもどう動くか分からないからな。策はいくつ仕掛けてもいいくらいだ。
この街最後の「やるべきこと」は装備の受け取りだ。
というわけで例の武具屋に顔を出した。
「よく来たな。モノは出来上がってるぜ」
満面の笑みで店主が声をかける。
カウンターの裏から出したのは薄い水色と白金を混ぜたような美しい金属の輝き。
鎧、足甲、そして中盾とメイス。並んだそれらは統一感があり、明らかに高ランク冒険者であると一目で分かるような代物だった。
店主に勧められるままフゥガは早速着替える。
どうやらサイズも問題ないらしい。
表に出ないところでクイーンアントの素材や高級な革素材も使っているそうだ。自慢げに店主が言っていた。
たった五日で鉱石からここまでの装備を作るとは……おそるべしファンタジー鍛冶師。
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ミスリルの鎧、ミスリルの足甲、ミスリルの中盾、ミスリルメイス
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「我ながら良いモン作ったぜ。これならSランクになっても使えるだろうよ」
「ありがとう、頼んで良かったよ」
「んで、これが差し引きの支払い分な」
「あれ? こっちがもらえるのか? てっきり不足になるかと思ってたんだが」
「バカ野郎。あれだけの鉱石と素材を持ちこんでんだぞ? 不足した素材や製作費を差し引いても足が出るわけないだろうが」
てっきり俺が不足分の金を出すほうかと思ってたら逆だった。かなりの金を渡された。まぁラッキーと思っておこう。
店主にはもう【ストンブリッジ】を出る旨を告げ、俺たちは店を後にした。
さすがに今から馬車に乗っても今日中に宿場町までは行けないか。
明日、改めて出立することにしよう。
俺たちはそんな話をしながら宿に戻った。




